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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
117/129

第116話

 帰ってきたお父さんはもういつも通りだった。

 本当にすぐに戻ってきたらしく、午後の剣舞の練習にひょっこり顔を見せたお父さんはご機嫌だった。

 隼人先生が怯えるくらいにはご機嫌で、お父さんが誰に会ってきたのかとても気にしていた。というか滞在時間的な意味でも時間帯的な意味でも本当に人に会うことが可能なのかと疑問に思っていた。

 私もそう思う。だって会いに行っていい時間じゃない。何時に着いたのか分かんないけど、多分、夜だよね。完全にアウトだよ、お父さん。

 フォンセとグレンも顔を引きつらせながら頭抱えてるし。私も頭を抱えたいよ。

 だって和の国で一泊して、お母さんの都合のいい時間に会って帰ってくるって思うじゃん。


「お父さん、本当に会ってきたの」

「……悪いことをしたって僕だって思ってるし、ちゃんと謝ってきた」


 非難がましい私の視線にばつが悪そうに答えるお父さんに目を瞬く。

 それは私だけじゃなかったらしくて。


「あやまった?」

「龍が」

「あやまった??」


 謝るってなんだっけ? と言わんばかりの顔でお父さんを凝視する先生とフォンセとグレンにお父さんの機嫌が急降下する。私も驚きでいっぱいの顔でお父さんを見ているんだけれども。

 ただジュリアだけが微苦笑混じりに微笑んでいた。


「その方は龍哉さんにとって大切な方なんですね」

「うん。そうだね」


 あっさり肯定したお父さんに男性陣がざわついたけれど、すぐさま強制的に黙らされていた。

 そのままフォンセとグレンを追い払ったお父さんは、ボロッとした隼人先生の隣でにっこりと笑った。


「それはそうと、瑠璃とジュリアは最後の追い込みをしようか」

「こっちとしてはありがたいけど、お前のその急なやる気なんなの?

 俺すんごい怖い」


 視線だけで再び隼人先生を黙らせたお父さんの指導は鬼でした。

 休憩中に突撃してきたレティシア様がオロオロするくらいにはボロボロです。

 そんな感じなので、レティシア様が休憩中も屍になっている私たちの世話を焼き始めるのにそう時間はかからなかった。


「瑠璃、ジュリア、そんなところで寝転ぶなんてはしたないですわよ!

 ほら、汗を拭いて、ちゃんと水分を取りなさい」


 すっかりマネージャー業が板についてしまったようで、授業が終わったらすぐに練習場に来て私たちの世話を焼いてくれる。


「やっほー。お姫様たち、順調か、な……?」

「エル先輩、お疲れ様です」


 ひょっこり顔を出したエル先輩がある一点を見て固まった。

 その視線を辿った先には甲斐甲斐しくジュリアの世話を焼くレティシア様の姿が。

「えーっと、どういう状況?

 もしかしてジュリア姫の邪魔してる?」


 回収しようか? と真顔で尋ねて来た先輩に苦笑いを零す。


「いいえ。レティシア様は私とジュリアのお世話をしてくださってるんですよ」

「は? あのワガママ姫が誰かの世話を焼く?

 俺は夢でも見てんのか?」

「素が出てるぞ」

「あ、レオちゃん。だって信じられる? あのレティシアだよ?」

「……それを言われると俺も自信がなくなるのだが、二人が許しているなら俺たちが口を出すこともないだろう」

「聞こえていましてよ!

 というか邪魔です。瑠璃の休憩の邪魔をしないでくださいませ」


 まなじりを釣り上げてピシャリと言い放ったレティシア様に呆然と立ち尽くすしかない先輩二人に瑠璃は目を丸くする。


「え? もしかして俺、今、レティに邪険に扱われた……?」

「エルビス。だから、素が出てる」

「だって、レオン。あのレティが……」


 呆然自失どころか顔色がどんどん悪くなっていくエル先輩にレオ先輩が心底面倒くさそうに溜息を吐いた。


「お前といいグレンツェンといい、恋愛そっちに関してポンコツになる呪いにでもかかっているのか?」


 真顔でそう言い切ったレオ先輩に吹き出す声が聞こえて振り向くとお父さんと隼人先生が肩を震わせていた。

 エル先輩は突然のレオ先輩の暴言さえ聞こえていないかのように愕然とレティシア様を見つめている。


「お前があの方に対してポンコツなのは小さい頃から知っているが……。

 それにしたって今更だろう?」


 真顔でお前何言ってんの? って顔をしてエル先輩を見るレオ先輩は容赦がない。


「自業自得って知ってるか?」

「……」


 何も反論できずにいるエル先輩にレオ先輩はまた一つ大きな溜息を吐いた。


「エルビス? 顔色が悪いですわ。どうかしましたの?」


 いつの間にか近づいてきたレティシア様に覗き込まれてエル先輩がビクリと肩を跳ねさせる。


「なん、でも、ない……」

「レティシア様。

 主がお茶にお誘いしたいそうなのですが、ご都合の良い日などはございますか?」

「はぁ!? レオンなにを」

「……黙れポンコツ。お前が面倒くさくなると俺の仕事が増えるんだよ」


 笑顔なレオ先輩に凄まれてエル先輩はおずおずとレティシア様に向き直る。


「……レティ」

「わたくし、当分の間、瑠璃とジュリアのサポートをいたしますので遠慮させていただきますわ」


 ツンとそう返したレティシア様にエル先輩が分かりやすく絶望した。

 そして遠くでもう限界だとばかりにお父さんと隼人先生が爆笑しているのを聞きながら、近寄ってきたジュリアにどうしよう? と視線を向ける。ジュリアから困り顔の微苦笑が返ってきた。


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