第111話
私の祈りが届いたのか、あの後すぐに解放された。
夕食だと呼びに来てくれたメイドのお姉さん本当にありがとうございます!
でも、明日フォンセとおでかけする約束しちゃったんだけど、どうすればいいですか。
自分の恋心を自覚したばっかりで正直二人でお出かけはきついです。
ドキドキしすぎて今日寝れる自信がありません。
というか何を着ればいいですか!髪型は!メイクは!
今までどんなカッコでお出かけしてた!?というか今まで通りでいいの!?可愛い格好ってどんな格好ですか!え、急に変えたら意識してるのバレちゃう!?
とりあえずジュリアに助けを求めよう。
結果、ベッドが服で溢れました。ああでもないこうでもないと言いながら絞った服から、ジュリアにヘルプコールして二人して悩んだ結果です。
おかげで一応、服は決まった。
決まったけど寝れない!!
今からドキドキしてたら明日持たないのは分かってるけど! どうしよう!!
……なんて思ってましたが、いつの間にか寝てました。
そわそわ落ち着かない気分で朝食を終えて、身支度に戻った部屋で超絶不機嫌なお父さんの視線を一身に浴びてます。
「出かけるのかい?」
「うん」
おもしろくないですとデカデカと書かれているお父さんの顔に首を傾げながらも、私は鏡とにらめっこするのをやめない。
「そんなに気合い入れて?」
「……そんなに分かりやすい?」
どうしよう。意識しすぎてる? でもでも! ちょっとでも可愛いって思って欲しいし。
今更だけど! 本当に今更だけど!!
伺うようにお父さんを見つめると、呆れたようなため息と小さな頷きが返ってきた。
「変、かな……?」
メイクなんて滅多にしないし、自分じゃ当然エアルさんや静奈さんにしてもらうみたいにはできない。
こんなことならもっと練習しとけばよかったと後悔していると、意外な答えが返ってきた。
「悪くないんじゃない?
クソガキと出かけるだけでそんなに可愛くしなくていいとは思うけど」
「ほんと? 本当の本当に変じゃない?」
自分でも分かりやすいくらいに明るくなった声にお父さんは諦めたように笑った。
「変じゃない。可愛いよ。
……心の底から面白くないけど」
お父さんの嘘偽りない可愛いを貰って舞い上がった私は、最後に付け足された呟きには気づかなかった。
ちょっとだけ自信を持った私が気合いを入れて立ち上がるとお父さんも椅子から立ち上がる。
「せっかくだから見送りしてあげる」
「うん! ありがと」
仲良く手を繋いで玄関ホールまで降りるともうフォンセが待っていた。
「ごめん、待った?」
「いや、俺も今来たところだ」
柔らかく笑ったフォンセが手を差し出す。手を重ねようとしたらぐいっと後ろに引っ張られた。
「門限は17時だから。1秒でも過ぎたら二度と君にこの子は任せない。
それから」
「龍哉くん」
「こんなことだろうと思って様子を見に来てみれば案の定か」
心の底から呆れていますという顔をしたエアルさんとおじ様をお父さんがギンと睨みつける。
「チビ、今日は一段と可愛いな。
楽しんで来いよ」
「龍哉くんはこっちで引き取りますから楽しんできてくださいね」
するりとお父さんの腕の中から私を解放したおじ様とエアルさんに背中を押されてフォンセの隣に立つ。
「待て、まだ話は終わってなッモガ!!」
「お前の話はいつまでたっても終わらないだろう」
「往生際が悪いですよ。龍哉くん」
おじ様に口を塞がれてモガモガしているお父さんとそれを宥めるおじ様とエアルさんに見送られて玄関を出る。
扉が閉まる直前に僕は絶対に認めないからな! 手を出したらコロス!!って叫び声が聞こえたけど、意味が分からなかったから聞こえなかったことにした。