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夜闇に咲く花  作者: のどか
サン・リリエール祭編
110/129

第109話

 朝は必ずやってくるものでありまして。

 当然のように幼馴染たちは迎えに来ますよね。


「帰りたくない」

「ワガママ言わないの。フォンセ様と話してみなさい」


 ぎゅうとジュリアの腕にしがみついてイヤイヤと首を振る私にジュリアが呆れたように目を眇めた。けれど、無理なものは無理なので。キッパリと否を示す。


「や。無理!」

「瑠璃―。そのくらいにしてやらないとフォンセがマジ凹みしてるぞー。

 あとが面倒くさいぞー。

 俺は知らないからな」


 ジュリアの側から離れない私に業を煮やしたグレンがひょっこり顔を覗かせた。

 思いっきりべーと舌を出してジュリアの背中に隠れる。

 それにガシガシ頭を掻いて困ったように眉を下げた出来る幼馴染は、チラリと背後を見てとってもいい笑顔を浮かべた。


「瑠璃、帰って来なさい」


 ベリッとジュリアから引きはがされて捕獲される。

 いーやーだー! とジタバタする私をまるっと無視してグレンはへにゃりと眉を下げてジュリアに声をかける。


「ジュリア、ごめんな。

 マジで助かった」

「いえ、私は瑠璃と女子会しただけですので」

「コレ、お礼」


 微苦笑で手を振るジュリアにグレンが何かを手渡す。

 ジュリアの笑みが引きつった。


「いただけません。お礼をいただくようなことは何もしてませんわ」

「あー。うん、そうだよな。ごめん」


 その言葉にホッとしたジュリアにグレンがニッコリ笑う。


「お礼じゃなくて俺がジュリアに贈りたかったから買った。

 だから、受け取ってほしいな」


 伺うように顔を覗き込まれたジュリアの目が遠くなる。

 無言で受け取れないと訴える瞳にグレンは眉を下げて困ったように囁いた。


「ちなみに受け取りを拒否されるとこれはゴミ箱行きになるんだけど」

「……ありがとうございます」

「うん。ありがとうジュリア」


 プレゼントをもらったのに恨めしそうなジュリアとホクホク満足そうなグレン。

 なにこの空気。耐えられない。

 そう思って顔をそむけるとフォンセと目があってしまった。

 なんとなく目が逸らせずに見つめ合う。私が内心パニックになっている間にフォンセがゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。ピシリと体が固まって、縋るようにグレンにしがみついた。

 ぽんぽんとあやすように頭を撫でてくれたけど、違うよグレン。

 今すぐ私を逃がしておくれ。

 お願いだから、じりじり後ずさろうとする私をがっしりと捕まえている手を離して!

 いつの間にか眉間に皺を寄せたフォンセが私の目の前にいます。

 助けて! 助けてジュリア!! 縋るようにジュリアを見たらにっこりと微笑まれて頷かれた。

 うそ!

 必死にジュリアに助けを求める私に何を思ったのかフォンセは疲れたように息を吐いて何でもないように手を差し出した。


「……帰るぞ」


 あまりにも自然に差し出された手に妙に安心して、気づいたらその手をとっていた。

 自分でもビックリするくらいあっさり。

 パチリと目を瞬いている私にフォンセが満足そうに口の端をあげて、ジュリアにお礼を言っている。


「ジュリア嬢、世話になった。ありがとう」

「いいえー。でも次はないと思ってくださいね」


 にっこりと笑顔で答えたジュリアに上等だとでも言いたげにフォンセが笑う。

 珍しいその笑みに見惚れている間に話が終わったらしく、気づけばフォンセと車に乗っていた。


「え? え?」


 車窓から小さくなっていくジュリアが頑張ってね! とばかりに手を振っているのが見える。

 意味が分からない。

 グレンも当然のようにジュリアの隣で同じように手を振っている。

 本当に意味が分からないんだけど!!


「瑠璃」

「……なに」

「悪かった」


 まっすぐに私の目を見て謝るフォンセに胸が苦しくなる。

 どうして、フォンセが謝るの。

 私が勝手に勘違いしただけなのに。

 私が、勝手に勘違いして、泣いただけなのに。


「不安にさせた」


 まだ、好きって言ってない。

 フォンセの気持ちも分からない。

 なのに、こんなの、勘違いしちゃう。

 自覚した途端、フォンセが私を甘やかしてくれる全部が特別になる。

 フォンセがくれる全部が意味を、変えてしまう。

 大きな手が両頬を包む。請うようにフォンセが言葉を紡ぐ。


「ごめん。でも忘れないでくれ。

 お前だけなんだ。

 俺がこうして触れたいと思うのも、今回みたいに勘違いされたくないと思うのも」


 それは、どういう意味?

 本当に、勘違いしちゃうよ。うぬぼれちゃうよ。

 息が詰まる。視界が滲む。

 ああ、今、すごく情けない顔をしている。

 宥めるように目元を撫でられて、零れる涙を拭われる。


「瑠璃、」


 優しい声が私を紡ぐ。

 ぼやける視界で見つめた先には、知らない顔をしたフォンセがいて―――――……。


「いつまでそうしているつもりだい? 戻ったならさっさと顔を見せに来なよ」


 容赦なく扉を開けて声をかけてきたお父さんにハッとして慌てて目元をぬぐった。

 いつの間にか侯爵家についていたらしい。

 すぐそばから舌打ちが聞こえて、そちらをみると苦々しく顔を歪めたフォンセがお父さんを睨みつけていた。

 お父さんはそんなフォンセを鼻で笑ってうやうやしく私の手をとる。


「ジュリアのところは楽しめた?」

「うん!

 それよりどうして運転手さんはお父さんの後ろで項垂うなだれてるの?」

「気にしなくていいよ」


 お父さんは項垂れている運転手さんを睥睨へいげいしてからにっこりと笑った。

 さ、あの人たちも待ってるから顔を見せに行くよ、とぐいぐい私の手を引いて歩き出す。

 そんなに急がなくてもいい気がするけど。急にジュリアのところにお泊りしたから心配かけちゃったのかなぁ。なんてのんきに考えていると背後から名前を呼ばれて振り返る。


「この後ちょっと付き合え」

「何言ってるんだい? 君は仕事だよ。仕事。

 瑠璃の相手は僕がするから君は安心して仕事してな」


 バチバチバチと火花がはじける音がした。

 私が答えるより先に返事をしたお父さんとフォンセの間で火花が散っている。

 怖い。


「瑠璃ちゃん! おかえりなさい」

「エアルさん! ただいま戻りました」

「チビ、茶でも飲むか?」

「おじ様! いただきます」


 あれは気にしなくていいぞ、と私を助け出してくれたおじ様とエアルさんに連れられてお屋敷に入る。

 おじ様とエアルさんと一緒に頂いたお茶はとてもおいしかったです。



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