第107話 フォンセ
俺と目を合わさない瑠璃とジュリア嬢を見送って和語準備室の扉を閉める。
ビリビリした空気に何故か少しだけ冷静さを取り戻せた気がした。
「さて、フォンセ。お前何やらかした?」
目が笑ってないグレンに問い詰められるが心当たりがない。
が、たぶん原因は俺だ。
瑠璃が目を合わさなかったのは俺だけだから。
それがこんなに苛立たしくて苦しくて辛い。
「はぁ、ホントに中庭で何があったんだよ」
「中庭?まさか」
「思い当たる節はあるんだな?」
「いや、だが、そのくらいで……? 瑠璃が?」
「いいから吐け」
グレンの圧に隼人の顔が引きつる。
俺はため息交じりに中庭でのことを話した。
王女殿下に瑠璃との時間を邪魔するなと抗議されて、適当に聞き流していたら中庭で彼女がこけそうになり、それを支えたと。
「……はぁ? それだけで瑠璃がああなるか?」
「おい、フォンセ、そりゃあどういう体制だった。グレンで再現してみろ」
「あ?」
「いいから」
意味が分からなかったがやってみると隼人はあからさまにあちゃーという顔をした。
そしてその体制の写真をとって俺たちに見せる。
「角度によっちゃあキスしてるように見えなくもないな」
「「……」」
無言で俺とグレンは写メを消して隼人を殴る。
グレンはあからさまに脱力して椅子をキィキィ言わせて遊んでいるが、そうか。つまり瑠璃は妬いたのか。
「上機嫌のところ悪いが、お前、瑠璃にガン無視されてるからな」
「たぶんこれからしばらくはされると思うぞー」
雑音は沈めて黙らせておく。
おそらく今一番敵に回してはいけないだろうジュリア嬢にメッセージを送って根回しをする。
お前が俺を意識したのなら。
お前が他の女に妬いたというのなら。
もう遠慮はいらないな?
絶対に逃がさない。