第105話
侯爵家に帰るとお父さんが目を瞬いた。
「もう帰ってきたの?」
そして私の隣にいるフォンセを見て溜息を吐いた。
「女の子同士のお茶も容認できないなんてちょっと狭量すぎるんじゃないかい」
「……」
お父さんの挑発にのることなくフォンセは無言だ。
「瑠璃、君も甘すぎる。まさかジュリアも許したのかい?」
曖昧に笑った私にお父さんは大きな溜息を吐いた。
「今日だけだよ」
私は困ったように笑うしかできなかった。
その後、何故かお父さんにバトンタッチされたエアルさんからも事情聴取をされました。
「あの、あまりフォンセのこと怒らないでください」
「あらどうして? 女の子同士のお茶会を邪魔するなんて万死に値します」
ぷりぷり怒るエアルさんに微苦笑を零す。
「ちょっとだけ、嬉しかったんです」
「瑠璃ちゃん?」
「心配して走って駆け付けてくれたのが、嬉しかったから、だから今日だけは見逃してあげてください」
「~~~~っ分かりました! 今日のところはお説教だけにとどめておきます」
お説教はするんだと思っていたらエアルさんの瞳が輝いたままガールズトークへと進展した。
どうしてこうなった!?
「それで瑠璃ちゃん、気になる男の子はできましたか?」
「いませんねぇ」
苦笑いでバッサリ切って捨てるとたちまち萎れる白薔薇姫。
「面白い話してるじゃない。私も混ぜて?」
「静奈さん!」
「それと瑠璃、うちの愚息も絞めとく方がいいかしら?」
「あー……ほどほどに? ジュリアも諦め半分だったし、帰りの車で文句は言ったみたいなので」
「分かったわ。ホント、あんたたち甘すぎるんじゃない?」
呆れた静奈さんに私は唇を尖らせる。
「だって、しょうがないじゃないですか。嬉しかったんですもん。
それにレティシア様とのお茶会よりフォンセを安心させるほうが大事な気がしたし……」
「……なに、アンタたちくっついたの?」
「無自覚なんです。静奈さん。無自覚なんですよ」
プルプルと何かを堪えているエアルさんに静奈さんはため息一つ吐いた。
「それで、お子ちゃまな瑠璃の恋は進展してるのかしら?」
「だーかーら、好きな人がいないのに恋もなにもないですって」
「ふぅん? 一緒にいてドキドキするとか安心する相手もいないの?」
一緒にいてドキドキする……? 安心する……?
フォンセ?
いやいや、なんでフォンセが出てくるの? 可笑しいよね?
「ねぇ、瑠璃ちゃん。フォンセとかどうですか?」
「ぅえぇ!?」
「あら、瑠璃の頭の中にいたのはフォンセみたいね」
「!?」
「図星、ですか。ふふ」
「ちがいます! 違いますからね!
たしかにフォンセといたらドキドキすることもあるけどそれはフォンセがイケメンだからで!
安心するのだって、ずっと一緒にいるからです!!
私とフォンセは幼馴染です!!」
「あらぁそんなに必死に否定しなくても私たち何も言ってないわよぉ?」
「~~~っ静奈さん!?」
「ふふふ、そうですか、フォンセの側は安心しますか?」
からかう気満々な静奈さんと反対にエアルさんはどこまでも穏やかな笑みを浮かべて慈愛に満ちた瞳で尋ねてきた。
居心地の悪さを感じながらも頷くとエアルさんの瞳がこれでもかというくらいに輝く。
「あ、これダメだわ。イヴェールじゃなきゃ止められないヤツだわ」
「静奈さん!?」
助けてと視線を向けると無理よ。諦めなさいと微笑まれる。
おじ様に憐みの視線を向けられながら救出されたころには私は精根尽き果てていた。