第104話
それから何故かちょくちょく王女殿下が練習場に顔を出すようになりました。
何故だ。先生も最初は驚いていたけれど自分に害がないと分かるや否や放置することに決めたようです。お父さんは生温かい視線を私とジュリアに向けてきます。
「懐かれたね」
「「いやあああああ!!!」」
お父さんの一言に私とジュリアは頭を抱える。
そんなわけないと笑い飛ばせない程度には王女殿下からお茶やら遊びのツンなお誘いがある。
もちろん全て丁重にお断りしています。そのあとあからさまにしゅんとしているから罪悪感が……! ジュリアも絆されてきて、休憩時間は相手してあげてるし。私もおやつ分けてあげたりしてるし。まさかそれが原因か!?
「瑠璃、ジュリア! 今日も来て差し上げましたわよ!」
「「お引き取りください」」
思わず声を揃えたら涙目でプルプルしてる。
「お前ら、イジメはダメだぞー」
「……休憩終わるので、今日はお相手できません」
「待ってますわ! 今日こそわたくしとお茶」
「「しません」」
「お茶くらいしてきたらいいじゃない」
隼人先生とお父さんは王女殿下の味方になったみたいです。
なんで!?
王女殿下瞳を輝かせて大人しく練習を見学しています。
取り巻きさんたちは初日からちゃんと置いて来てます。
「今日はここで終わり。
さっさと着替えてレティシア嬢とお茶行ってこい」
「あの子たちには僕から言っておいてあげる」
笑いを噛み殺し切れていない先生とお父さんをじとりと睨むとさっさと行けと追い払われる。その隣ではパァアと顔を輝かせる王女殿下。
「……学園のカフェテリアでいいですか?」
「……着替えてきます」
「待ってますわ!!」
そんなわけで王女殿下とお茶会IN学園のカフェテリアです。
「二人はいつになったらわたくしをレティと呼んでくれますの?」
キラッキラの笑顔で問い詰められて私とジュリアは顔を見合わせた。
呼ぶ予定はないです。そう言ったら泣くかな?
泣くわね。確実に。
「あー、どうでしょう。仲良くなったら呼ぶかもしれないですね」
「そうですね。仲良くなったら呼ぶかもしれません」
「わたくし頑張りますわ!!」
え? なに。仲良くなりたいの? 私たちと王女殿下仲良くなりたいの?
目線を合わせてジュリアと確認し合う。そうと分かれば言いがかりをつけるわけでもなく、練習場に突撃してきた理由も分かった気がする。
なるほど、そういうことか。
なら、いいか。
「コレおいしいですよー」
「こちらもオススメです」
まぁ、すぐに愛称で呼ぶほど仲良くはなれないけど、警戒はしなくてもいいのかなぁ。
なんて思っていたら息を切らしたフォンセとグレンが登場しました。あ、王子殿下も。
「瑠璃!」
「ジュリア!」
「レティ! お前はまた瑠璃嬢とジュリア嬢に迷惑、を……?」
「ただお茶してるだけですよ」
「お疲れ様です」
「お兄様! わたくしは瑠璃とジュリアに迷惑なんてかけていませんわ!!」
のんきに笑う私にジュリアがどこか同情するようにフォンセとグレンを労い、王女殿下はぷんぷんしている。
状況が理解できずに呆然としていた男三人は目を瞬いて脱力した。
「何もされてないな?」
確認するように私の顔を覗き込んだフォンセに微苦笑で頷く。
グレンもジュリアに似たようなことを訊ねていて王女殿下の機嫌が急降下していく。
それを見た王子殿下が疲れ果てた声で王女殿下を窘める。
「レティ、自業自得という言葉を知っているかい?」
「お兄様ひどいですわ!」
「私はお前に自分の立場を理解して立ち回れと言ったはずだ。
頼むから無駄にフォンセとグレンを刺激しないでくれ……」
本音はそこですね。
「無理ですわ。わたくし瑠璃とジュリアが気に入りましたの。
絶対にお友達になってみせますわ」
にっこり笑った王女殿下にフォンセたちの驚きの視線が私とジュリアに向く。
微苦笑で頷いた私たちにフォンセは無表情でなにか考え出して、グレンは笑顔で固まった。
王子殿下は遠い目をして現実逃避している。
「そういう訳で覚悟なさってね。
わたくしはじめてのお友達は貴女たちがいいわ」
王女殿下はどこまでもマイペースだった。
「はじめてって、取り巻きさんがたくさんいらっしゃるじゃないですか」
「あら、あれは王女という地位の付属品よ。わたくし個人のお友達じゃないわ」
「さようでございますか」
ジュリアまで遠い目をしだした。
え、どうするの? コレ。
「お茶会は終わりだ。瑠璃、帰るぞ」
「ジュリアも送るよ」
すっとフォンセが私の荷物を持った。
それに倣うようにグレンもジュリアのカバンを持つ。
私たちが目を瞬かせている間にフォンセがお会計を済ませ、私の手をとる。
「え? あの、フォンセ?」
「帰るぞ」
有無を言わせないフォンセに目を瞬く。そして微苦笑を零した。
「心配かけてごめん。
レティシア様今日はこれで失礼いたします」
その様子を見ていたジュリアもグレンの顔を見て諦めたように息を吐いた。
「レティシア様、私も失礼いたしますわ。
また、ご一緒できるのを楽しみにしています」
「ええ、二人とも気を付けてね」
第一回王女殿下とのお茶会はこうして幕を閉じた。