第103話
王女殿下襲来以来、目立った事件もなく私とジュリアは隼人先生のスパルタに耐えている。
お父さんは仕事の都合で来れない日もあったけど、意外とまともに教えてくれていた。
先生が授業でお父さんが仕事で不在な日も私とジュリアは自分たちで練習できる程度には成長していた。そんな訳で練習に忙殺されていた私たちは完全に油断していたのです。
「「……」」
思わず遠目をして無言を貫く私たちに王女殿下御一行は眦を釣り上げてキャンキャン吠える。
「ちょっと聞いていますの!」
聞いてますよ。
要はフォンセとグレンが急に冷たくなったのは私たちのせいだとおっしゃりたいんですよね。
あれからどれだけ誘っても御茶さえ一緒にしてもらえないとか。
いや、忙しいからね。あの二人。あの二人だけじゃなくて今なら王子殿下を誘っても笑顔でブチ切れられるんじゃないかなぁと思うわけです。
だってサン・リリエール祭はどんどん近づいて来てる訳ですし。
出し物も私たちの剣舞だけじゃなくてプロの方の演劇とか色々呼び込むらしいし。
ダンパの準備も忙しいよねぇ。
「申し訳ありませんが練習の邪魔ですので御用がそれだけならお引き取りを」
ジュリアカッコイイ!!! すき!! 絶対零度の笑みを浮かべたジュリアにキュンキュンしてたら相手が激昂した。
「伯爵令嬢如きが誰に口をきいているの!」
唇を噛んだジュリアの前に出て私はにっこりと笑う。
「学園では身分より実力が優先されると聞いております。
彼女も私もサン・リリエール祭で出し物を任される栄誉を頂きました。
皆様は何か学園に貢献なさっておられるのですか?」
「っ! 庶民風情が!」
「あら、それもフォンセ様とグレンツェン様に強請ったのではなくて?」
「そうよ! そうでなければ、お前たち如きにそのような大役を任されるわけがないわ」
今にも殴り掛かって来そうなお嬢さんの肩に別のお嬢さんがそっと手を乗せて意地悪く笑う。すると周りの取り巻き立ちもそうよそうにちがいないと騒ぎ始める。
私は静かに怒っていた。
「フォンセとグレンへの侮辱は許さない。
確かに二人とも私を幼児と勘違いしてるんじゃないかってくらい過保護だけど、仕事に私情は持ち込まない。監督生の皆様だってそれなら許可なんて出さない」
「だったらどうして! どうしてフォンセたちはお前を特別扱いするの?
どうして、あの人までお前たちをお姫様だなんて呼ぶの!
可笑しいわ! お姫様は私よ! 愛されるのは私のはずよ!」
このお姫様は頭が弱いのかな。
というかあの人って誰ですか?
「王女殿下は一体どなたに愛されたいんですか?」
目を見開いて固まった王女殿下に変な汗が背中を伝う。
なんだか面倒なことに自分から突っ込んでいっている気がする。
でも、貴重な練習時間をこれ以上潰されるわけにはいかないし。
ぐるぐる思考が回り始めた私に助け舟をだすようにジュリアがため息交じりに囁く。
「まずはご自分を省みることから始められては?
正直に申し上げると今の殿下は権力を振りかざす嫌な女の子です。
愛されたい方がいらっしゃるのなら私たちに八つ当たりするよりご自分を磨かれた方がよほど建設的かと思いますわ」
「っ帰りますわ!!」
涙目になった殿下は踵を返して走り去った。
慌てて取り巻きたちが追いかけていく。
「「嵐が去った」」
剣舞の練習よりも疲れた私とジュリアは隼人先生が来るまで自主休憩することにした。
疲れ切った顔をする私たちに隼人先生がジュースを奢ってくれました。