第101話ー王女殿下ー
どうして! どうしてわたくしが怒られなければならないの!
わたくしはこの国の王女。お姫様なのよ!!
どうして、フォンセもグレンもわたくしのお願いを聞いてくれないの?
どうして、どうして、どうして!!!
「レティ」
「お兄様なんて嫌いよ!」
「ごめんね。あの馬鹿父と愚兄共がお前を甘やかすのを私がもっと止めていれば」
「どうして? お父様もお兄様たちもわたくしに優しいですわ。
それをどうしてそんな風におっしゃるの?」
「レティ……」
弱り切ったお兄様の声にクッションをぎゅっと抱きしめてそっぽを向く。
三番目の兄は昔から自分に意地悪ばかり言う。
フォンセたちに迷惑をかけるなとかあの人を困らせるなとか。
迷惑なんてかけてないし、あの人だって困らせてないわ。
それに、あの人が悪いんだもの。
わたくし以外の女の子に笑いかけるあの人が悪いの。
フォンセとグレンにだって迷惑なんてかけてないわ。昔から二人はわたくしの願いを叶えてくれるもの。
お父様も他のお兄様たちも流石レティだ。私たちのお姫様は愛されているって褒めてくださるのに、お兄様だけが厳しい目をわたくしに向けて意地悪ばかり言う。
「お兄様なんて嫌いよ! お兄様もわたくしのことが嫌いだから意地悪ばかり言うのよ!」
嫌い嫌い。
「レティ。いい加減にしなさい。
私が意地悪だというのなら、お前なんて放置しているよ。
お前が可愛いからこうして世話を焼いているんだ」
「余計なお世話ですわ!
大体わたくしよりフォンセたちに迷惑かけている者がいるではないですか!
彼女は咎めないくせに」
「……彼女たちがいつフォンセたちに迷惑をかけたと言うんだい」
彼女たち? ああ、確かにグレンにダンスパーティーの申し込みをさせたという娘がいたわね。確か伯爵家のご令嬢だったかしら。あの娘もグレンに付きまとっているのかしら。
そちらも調べないといけませんわ。でも、今は。
「毎朝教室まで送らせているそうではありませんか!
帰りもわざわざカフェテラスで時間をつぶして一緒に帰っているとか。
黒龍の娘だかなんだか知りませんがフォンセたちに甘えすぎではなくて」
「……うっわ、そこまでするか。知りたくなかった。フォンセの執着怖い」
お兄様が小声で何かつぶやくけれど、私の耳には届かない。
けれどきっとお兄様は知らなくて驚かれたのだわ。
「レティ、それは瑠璃嬢ではなくフォンセの望みだよ。
彼は彼女が大切で仕方ないんだ。
だからお前が彼女に余計なマネをしないようにお前の相手を適度にしてくれているだけだ。
現実をみなさい」
お兄様の言葉にわたくしは思わずクッションを床に投げつけた。
「そんなはずないわ! わたくしはお姫様よ! お父様も他のお兄様たちもわたくしは愛されるべきお姫様だって」
「それはいつの話だい……」
がっくり項垂れてどこか疲れた様子のお兄様は頭が痛いとばかりに額に手をやって首を振る。
「とにかく、現実をよく見てもっとよく考えて行動しなさい。
お前は確かにこの国唯一の王女だが時勢は貴族制廃止に動いている。
王族だって象徴としての役割を手探りしている状態だ。
お前の振る舞いは正しいと胸を張って言えるのかどうか、しっかり考えなさい。
でないと私は王城にお前を強制送還しなければならなくなる」
お兄様はそう囁くとわたくしの部屋を出て行った。
意味が分からないわ。
わたくしは間違ったことなんてしていないもの!