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夜闇に咲く花  作者: のどか
藤の翁編
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第10話

 今日からいよいよ新しい学校だ。

 こちらの学校は和の国の学校制度とは違って十二歳から十八歳までの子が同じ学校に通う。

 つまり二つ上のフォンセと三つ上のグレンも同じ学校に通う訳で、距離的な問題から車で通うことになったそこには必然的に3人で一緒に行くことになった。

 今日はグレンがお迎えに来てくれるらしい。


「瑠璃! 可愛いッ! 

 和の国のセーラー服も可愛いかったけどこっちの制服も似合ってる!!」


 挨拶もそこそこに、可愛い可愛いとぎゅうぎゅう抱きしめてくるグレンをフォンセがベリっと引きはがしてゴツンと殴る。じゃれつく犬とそれを叱る飼い主みたいだとか思ったのは内緒だ。


「瑠璃、忘れものだよ」

「え?」


 そう言ってお父さんに渡されたのは赤い袋に入った細長いもの。

 妙にずっしりしているそれは手によく馴染む重さで、よく知っているもの。

 だけど、学校に持って行くようなものではない。絶対にない。


「お、お父さん……?」

「刀持たずに何しに行く気なの?」


 引きつった私の顔に気付かずに呆れた視線を向けてくるお父さん。


 いやいや、学校は勉強するところだよね!? 普通刀なんて持って行かないよね!?


 助けを求めるようにフォンセとグレンを見ると2人も驚いた顔でお父さんを凝視していた。


「ちょっと待って、龍。もしかして瑠璃も特殊科に来るの? 普通科じゃなくて?」

「普通科ならわざわざ君たちと同じ学校になんてやらないよ」

「また説明なしか」

「車の中は暇でしょ」

「ははは、俺たちに丸投げー」


 グレンの言うとおりお父さんはフォンセたちに説明を丸投げして颯爽と仕事に戻っていた。

 呆然とする私は小さくなっていくお父さんの背中を見つめるだけで何も言えない。


「説明してやるから行くぞ」


 朝から疲れたようなフォンセに手をひかれて車に乗せられる。

 グレンの笑みも心なしか引きつっているように見えた。


 ……どうやら今日から通うことになる学校は私の知っている学校とは違うらしい。


「えっと、どこまで話したっけ?」


 苦笑いのグレンに二人が話してくれた学校の話を思い出す。


 ……可笑しいな。二人が監督生なのと綺麗な薔薇園があることくらいしか聞いてない気がする。

 あと自由すぎる校風で二人がほとんど授業に出ずに監督生専用のサロンに引きこもってたり、森の中で昼寝してたりしてるってことも。

 敷地内に森があるとかどんな学校だよと思ったのを覚えてる。


「あー、そうだっけ??」


 やっちまったという顔をするグレンと、じと目でグレンを見るフォンセ。

 いやいや、フォンセも話してくれてないからね。なにやってんだ、じゃないから。


「特殊科は座学も学ぶが戦闘に特化したコースだ。その中でそれぞれ銃や剣の専攻にわかれる」

「は?」


 戦闘に特化したコース?


「授業では自分にあった武器の扱いを学んで試験は実践形式。成績によっては授業免除なんて特典もある。学園内で武器の携帯が許される言葉通り特殊なコースだ。

 フォンセは戦闘に特化したって言ったけど普通科の体育が戦闘訓練になったって言った方が分かりやすいかな。ちょっとした士官学校みたいな」


 分かりたくないです。

 というかどうして私がその特殊科とやらで戦闘訓練を受けなきゃならないの?

 刀渡されたってお父さんにお遊びで教えてもらっただけでとても通用するとは思えないんだけど……。

 普通科でいいです。普通科がいいです。是非とも普通科でお願いします。


「他は言葉で説明するよりは自分の目で見た方が早い。うちは色々と独特だから」

「そうだな。習うより慣れろだ」


 これ以上独特ってなんですか!?

 特殊科とやらに放り込まれるだけで怖いのにまだ何かあるの!?

 和の国の中学校が恋しいよ!! カムバック普通!!


「瑠璃、大丈夫だ」


 混乱の渦から掬いあげるようにフォンセが囁く。

 それだけでなんだか本当に大丈夫な気がして自然と頷いていた。

 グレンもいい子いい子と小さい子にするように私の頭を撫でながら、俺たちがついてるんだから心配しなくていいよと笑ってくれる。

 それが心強くてふにゃりと笑うと二人も満足そうに笑ってくれた。

まだ不安はあるけれど、二人がいてくれるなら本当に大丈夫な気がする。

 だけど。


「……どうして特殊科?」


 二人とも士官する訳じゃないよね。

 おじ様たちの跡を継ぐんだよね?

 もちろん私も士官なんてしないし、戦闘が必要になる予定もない。

 そんな予定あってたまるか。

 それなのにどうして戦闘を学んでるの?

 安心するのと同時に沸き上がってきた疑問に二人はパチリと目を瞬いて顔を見合わせた。


「なぁ、瑠璃。お前、龍の仕事のことどこまで聞いてるんだ?」


 グレンがおそるおそる聞いてくる。

 そういえば私、お父さんの仕事のこと詳しく知らない。


「えっと、治安を守ってる的な話は聞いたことある気がする」


 なんかそんなことを言ってた気がする。結局適当にはぐらかされたけど。


「間違っては、ない。よな。イチオウ」


 遠くを見ながら渇いた笑みを浮かべるグレン。思いっきり顔を歪めるフォンセ。

 なにその反応。怖い。


「あの馬鹿その説明も無しに瑠璃を特殊科に放り込む気だったのか」


 あの、特殊科ってそんなに怖いところなんですか。

 やっぱり普通科がいいです。というか普通の学校に転校したいです。


「じゃあさ、夜の闇って言葉は聞いたことあるか?」

「……ないと思う。でも“コクリュウ”っていうのは聞いたことあるよ」


 グレンに近づくなって言った女の子が言ってた。

 お父さんのことだろうとは思ったけど、ついでだしそのことも教えてくれるかな。


「あははは。龍のやつマジで何やってんだ。つか何考えてんだ」

「龍哉の通り名を知ってて、夜の闇のことを知らないとか有りか」

「グレン? フォンセ??」


 頭をかかえてブツブツ言ってる二人と全く訳が分からない私。

 車の中がカオスです。


「……この話は長くなる。帰ったら教えてやるからそれまで待て」


「俺たちの話もその時な。あと瑠璃が特殊科にやられたのは身を守る為だと思うぜ。

 護身術ってレベルじゃねぇけど。ぶっ飛んだ龍のことだからたぶん」


「……うん。なんかごめん」


 朝からげっそりと疲れた顔をするグレンとフォンセになんだかすごく申し訳なくなった。

 お父さん、ホントにそろそろ事前に説明することを覚えてください。

 私、どれだけ無知なの。

 ……この場合何も聞かなかった私も悪いのかな。

 二人ともなんかごめん。



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