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「ごめん、薫。俺と別れてくれ。
お前に不満なんてない、俺には勿体ないほどのイイ女だ。
……でもどうしても無理なんだ。すまない」
そう言って強ばった表情で席を立とうとした男性に、
またかと内心溜息を吐きながら「分かったわ」と素直に恋人との別れ話に同意する女性。
男性はまさかこんなにもすんなりと別れ話が成立するとは思っていなかったようで、驚きの表情を浮かべている。
ポカンとした間抜け面を晒したままの元恋人に、
「ここの支払いはお願いね」
そう言うとさっさと立ち上がり、自動ドアに向かい店を後にする女性。
店内には元恋人と、突然始まった別れ話に修羅場を期待し、
聞き耳を立てていた客達だけが取り残されたのだった。
恋人、否元恋人を店内に置き去りにしてきた『振られ女』こと朝比奈 薫。
彼女は平気そうに見えたが、内心は落胆し自己嫌悪に陥っていた。
「私の、どこがいけないのよ」ブツブツと独り言を言いながら歩く26才の女性。街行く人に、少し遠巻きにされているのがわからない程には混乱しているようである。
「今年に入ってからもう3人目。……今度の人こそいけると思ったのに」
そう言ってギリと歯を食いしばる。
薫は26才にして、通算16人目の恋人にたった今振られたばかり。
気が立つのも無理はない。
付き合った男性に尽く振られてしまうこの女性、決して不器量ではない。
よく手入れのされた艷やかな白い肌に緩やかに波打つ豊かな栗毛色の髪。
爪は短めではあるが剥がれなど欠片も見当たらないようピンクベージュに塗られている。
スタイルも本人の努力の甲斐あって、細身ではあるが筋肉も多少あるためショートパンツやミニスカートだって、引き締まったスラリとした足で楽々履きこなしてしまう。
顔立ちも少しキツめではあるが、猫のようなアーモンド型の大きな目が印象的な美人である。
実際すれ違う男性は、思わずチラリと視線を投げてしまうようなイイ女であった。
では性格ブスなのだろうか?と言われれば、これも違うと言わざるを得ない。
仕事をバリバリとこなすため、可愛げはないかもしれないが裏表のない姉御系として職場でも男女を問わず慕われている。実際に憧れている社員も多い。
なのに、何故振られるか。
偏に『不運』
そうとしか言いようがないのである。