キャンディーは町へ出かけました
第五話
キャンディーは町へ出かけました
家に閉じこもっているのは、体に悪い事です。
やっぱり、外に行かないと!
「と、言う事で、ジャック君。さあ、外へ行きましょう」
「は?」
もう、つまらないんです。
だって、来る日も来る日も、ジャック君は部屋に閉じこもってるんですよ?
幽霊さんと話す事もありますが、それだって一日に二三度あるかないかです。
もう、キャンディーは暇です。
つまらないです。
それに、最近気づいたのですが、部屋と部屋の壁はすり抜けられるけど、外へは行けないんです。
つまり、ジャック君か誰かに玄関を開けてもらわないと外に行けない!
そんな私の思いも知らず、ジャック君はいつも通り座って幽霊さんを待ってます。
「外に行きましょうよ~。あ、そう言えば、この玄関はどこに繋がってんです?」
「なんでもいいだろ?」
「気になります」
「気にすんな」
まあ、酷い。
幽霊さんもいなくて暇なのに。
もう、こうなったら徹底的にいきますよ!
「気になります!」
「気にすんな」
「気になります!!」
「うるさい!」
「気になって木になります!」
「勝手になってろ!」
「気になります気になります気になります!」
「黙ってろ!!」
「……もう、暇人のくせに」
「……お前、オレを何だと思ってる」
「自宅警備員ですか?」
「ちげえよ!!」
はぁはぁ……お互い息を切らせての大げんかです。
それにしても、ジャック君、なかなか言いますね……。
しょうがない、最後の手です。
「……もしかしたら、外を見て記憶が戻ったりとか、したりしなかったりするかもしれないのに……」
「……」
「……」
「……ああっ、もう! わかった! わかったから黙れ!!」
「ほんとですか?!」
キャンディーの、勝利です!!
ふふ、やったぁ。
「ちょっと待ってろ」
ため息をつきながら、ジャック君は何やら準備を始めました。
数分後――。
ジャック君は、いつもの真っ黒なコートを着てました。
準備するとか言ってましたが、まったく変わってません。
……何を準備したのかしら?
「行っとくが、はしゃぐなよ。それと、たぶんお前、ふつうの人には視えないからな」
そう言えば、私生き霊なんでしたっけ?
霊って、ふつうの人には視えないそうです。
じゃあ。何をしても気づかれないのかしら?
「大丈夫ですよ。いたずらはしません」
「……するつもりだったのか」
「まあ、そんな細かいことは放っておいて、外へ行きましょう」
「はいはい……」
ため息をついたジャック君は、あきれ顔で玄関を開けました。
すると……明るい日差しが照っていました。
石畳の道が伸びていました。
そして、それと同じ石で出来た家がたくさん並んでいます。
ジャック君のお家は、その中でもとくに古い家でした。
小さな庭には、雑草が生え茂っています。
まあ、ジャック君ったら、きちんと除草してないのね。
「ところで、ここはどこです?」
「キルタタウン。シェイランドにある片田舎」
「キルタタウン? シェイランド? なんですか? それ」
「こっちは知らねえのか。シェイランドって言うのは、中央大陸の南に位置する王国。そんでもってキルタタウンはさっき言った通り、シェイランドにある片田舎」
「そうなんですか……」
うーん、まったく知らないわ。
聞いた事も無い。
レンデル帝国とフェリス皇国の戦いとかは知ってたのに、どうしてかしら?
ま、そんな些細な事、忘れましょう。
だって、記憶喪失になってから、初めての外出ですもの。
「ところで、オススメの場所とかあるんですか?」
「は?」
「町案内してくださいよ」
「なんでオレが……」
なんてぶつくさ言いうけど、さすがジャック君!
うだうだ言いながら手を取ると、町の中心に向かってくれました。
少しずつ、人が多くなっていきます。
「あら? このへんは新しいのね」
石畳の色が、ある場所から変わっていました。
家も、どこか真新しい感じがします。
「この辺はな……」
「何かあったんです?」
「ほら、戦争があっただろ? この辺はその時に大規模魔術に巻き込まれて壊れたんだ」
「なるほど」
シェイランドも戦いに巻き込まれていたのね。
この前の、フェリスの騎士さんを思い出しました。
彼女は、あの戦争で亡くなった人の一人。
きっと、この町でも沢山の方が亡くなったのでしょう……。
なんだか、ちょっと切ないです。
戦争が終わって四年。
様々な所に、その影は在りました。
そんな戦争の中、私は何をしていたのでしょうか。
何処に住み、何処で生きていたのでしょうか。
「ところで、ジャック君……」
パッと横を見ると、誰もいません。
パッと反対側を見ると、ネコさんが歩いてました。
パッと後ろを見ると、知らない道が続いています。
「あら?」
ここは、何処なのかしら?
とりあえず、歩いてみる事にしましょう。
「まあ、初めてのお使いだわっ」
頼まれた物はないけれど、ちょっとわくわくです。
「あいつ……」
静かに、ジャックは怒っていた。
「……迷子になりやがった」
周りの目があるので、小さな声で文句を言う。
しかし、横を歩いていた人が少し胡乱げにジャックの事をちらりと見て歩き去った。
「……」
もう二度と外出何ぞするものか。
そう、固く誓ったジャックは辺りを捜索し始めた。