裏二話 ジャックとジャック
裏二話
ジャックとジャック
先輩の後を追って扉をくぐると、いつもの町では無くどこか寂れた墓地に出た。
先輩は、奥へと足を進める。
それを追っていくと、声が聞こえた。
叫び声にも似た、誰かの声。
思わず足を止めて、その声を聞こうと耳をすませる。
しかし、また聞こえる事はなかった。
「聞こえたのか」
「はい」
「今のが……目標だ」
「……」
今の声が、今回消滅させる魂。
「行くぞ」
暗い墓地を二人は行く。
墓地は荒れて、雑草が茂っていた。
墓石も所々ひびが割れて壊れ、中には倒れている物まであった。
ジャックは、先輩を見上げて聞く。
「ここか?」
「あぁ」
「……」
「来るぞ」
風が吹いた。
思わず目を閉じた。
そして、目を開けた時には、黒い影がいた。
墓石のまわりを、めぐり続ける影。
それが、幾つも現れる。
「あぁなった死者は、もう助からない。オレ等が助けなければ」
ジャックが手を差し出すと、死神の持つような鎌が現れる。
しかし、それの色は純白の白。
それが一瞬にして変形し、短剣になった。
先輩も、いつの間にか長剣を持って臨戦態勢になっていた。
黒い影が、動く。
「いくぞ」
「了解」
白い一閃。
先輩は、黒い影を切り裂いた。
一瞬揺らめいた姿は、霧のように消えて行く。
「まだだ」
気を抜きそうになったジャックに、先輩は叫んだ。
黒い影が、哂う。
小さな墓場のそこかしこから、黒い影がわき出す。
「これが、逝けなかった者たちの姿だ」
その姿を、ようやく視認した。
黒く染まった黒い影の本当の姿。
それを見て、思わず手を止める。
彼等は、死者だ。
死んだことに気づけず狂ってしまった者。
死んだことを受け入れられず生に執着する者。
死ぬことを許せず、生者を呪う者。
様々な理由で、逝けなかった者達の集合体だった。
「……」
それを憐れみながら、一揆に斬り裂いた。
迷った死者を導く事。
死んだ後に行くべき所に逝けなかった者達を、逝く事の出来ない者たちを、行く事を拒む者達を、導くのがジャック・オ・ランタンの役目……。
「グレーテル……」
君は、今、何処にいる?
逝く死者を見送りながら、ジャックはそっと呟いた。
先輩
ジャックの先輩