ジャックとプルート
第二十三話
ジャックとプルート
くそ、あいつ逃げやがった。
散々危険だなんだって繰り返して、結局セレスティンってなんなんだよ。
走り去ったレガート・レントに心の中で文句を言いながらプルートを睨む。
「セレスティン……って、なんだよ」
彼は困ったように笑った。
「まあ、ここではなんだし、よければいい店があるんだけど」
プルートがジャックを案内したのは、なんの変哲もない喫茶店についた。
ただ、少し照明が暗く、どこか秘密めいたモノを感じた。
「あ、アップルジュースあるかい?」
プルートはジャックをちらりと見て、やって来た店員にそう聞く。
「一つ聞いて良いか?」
「なんだい?」
「そのアップルジュースは、お前のか」
「え、君――」
「帰る」
「はは、冗談だよ、弟よ」
「ふざけるな」
子ども扱いすんなよ。
そんでもって、何時からオレはお前の弟になった。
頬をひきつらせるジャックに、プルートは苦笑する。
「じゃあ、コーヒー二つで」
「はい、かしこまりました。砂糖とミルクもお付けしときますね」
店員はまるで微笑ましいものを見るように去って行った。
「……」
完全に、兄弟と誤解されたきがする。
黒尽くめのプルートと、黒尽くめのジャックは、はたから見たら似た者兄弟に見えるかもしれない。
ジャックが、兄を真似して大人がる弟みたいに見えるかもしれない。
百歳を軽く超えるはずのジャックにとって、ものすごく不本意だが。
「何のつもりだ」
「いや、面白かったから」
「だから、ふざけんな。……で、セレスティンとはなんだ? お前の目的は?」
「……本当に君、セレスティンを知らないのか」
驚くプルート。
驚く前に、さっさと説明しろよ。
「君たち、ジャック・オ・ランタンにはよくお世話になっているよ」
「……」
こいつ、なぜ知ってる?
警戒を、一段と高める。
ジャックはただ見ただけなら、ふつうの人間とまったく変わらない。
レガート・レントも、最初のうちはジャックをただの子供だと思っていた。
それなのに、こいつは知っている。
ジャックがジャック・オ・ランタンであることを知っていて、わかっている。
「まあ、それは置いといて。セレスティンとはね、この世界に反抗する組織だ。この、ふざけた世界を壊す、そして、本来の姿を取り戻すための組織」
完全にはぐらかされた。
しかし、どうせ聞いてもまたはぐらかされるだろう。
「そんな組織が、なぜこんな所にいる」
「まあ、ぶっちゃけ今はまだ地下活動中なんだ。我々を束ねる盟主の復活の為にね。盟主が完全に復活する前に、きちんとした準備をしたい。その為に、いろいろな争いを起こしている」
「……そんな事を、オレに言って良いのか?」
世界に反抗するなんて、馬鹿げた話だ。
彼等、セレスティンは世界を敵に回すのか?
たとえ、そうだとしても、そんな事をただのジャック・オ・ランタンになぜ言う。
「だって、君たちジャック・オ・ランタンは生者達にはノータッチのはずだろう?まあ、今回のような君とキャンディーの関係は別として」
「なっ」
なんで、知ってる?
こいつ、本当に何者なんだっ?!
思わず立ち上がって机を叩いていたジャックに、プルートは優しくほほ笑む。
「まあ、落ち着きなさい。弟よ」
「っ、っ……っ!!!」
こいつ……!!
いろいろと我慢の限界が来そうなんだが、どうすればいい。
とりあえず、乱暴に座り込むと、店員がコーヒーを持ってきた。
「どうぞ……ダメですよ、弟君をからかっちゃ。いくらかわくても、これくらいの年頃は結構繊細なんですよ」
「ああ、すまないね。つい、面白くて」
「貴様……」
もはや兄弟設定が板についているプルートに、思わず殺意が芽生える。
「さっさと話しを進めろ」
「まあ、とりあえず、君はキャンディーと会いたいんだろう? 私達は、キャンディーが邪魔なんだ。だから、殺そうと思ってたんだけど」
「……は?」
こいつ、何を言った?
「だから、この前までは殺そうって決めていたんだ」
キャンディーを?
「まぁまぁ。話は最後まで聞くモノだよ、ヘンゼル君。でも、君が出てきたことで、ある良い名案が浮かんだんだ。君、この国からキャンディーを連れて逃げてくれないか?」
「どうい―――!!」
「静かに。他のお客さまに失礼だよ」
「っ―――!!」
キャンディーを殺す?
この国から逃げる?
どういうことだ。
こいつは何を言ってる?!
だから、気づかない。
プルートが、ジャックの名を、ヘンゼルと呼んだことを。




