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ヘンゼルと迷いみこ  作者: 絢無晴蘿
ジャック・オ・ランタン
24/51

裏七話 遠慮はいらないよ、さあお食べ

裏七話

遠慮はいらないよ、さあお食べ



その日から、魔術師のハンスとの共同生活が始まった。


「いやあ、ヘンゼル君はいつでもしかめっ面だね」

「だからどうした」

二人が立つのは少し狭いキッチン。

そこで、男二人の料理をしていた。

「もう少し、子供は子供らしく笑った方が良いとオレは思うんだよね」

「余計なお世話だ」

僕が野菜をぶつ切りにしていくと、それをハンスは炒める。

「もう少し、形を整えたほうが良いと思うんだが」

「気のせい。だったらお前が切れ」

「はいはい」

癪な事に、ハンスは料理がうまかった。

と言っても、僕より少しという程度だが。

「……どうだ。オレの方がうまいだろ」

やっぱりぶつ切りの野菜を、僕は炒める。

「五十歩百歩って言葉知ってるか?」

「さあ? 知らん」

「あっそ」

前言撤回。

僕と全然変わらない。


「ねえ、ハンスさんはなんで私たちを拾ったの?」

ハンスに本を読んでもらっていたグレーテルは、不意にそんな事を言った。

「そうだね、だって目の前に死にかけの幼い子どもがいたら、誰だって助けるんじゃないかなあ?」

「そっか」

グレーテルは、ハンスに懐いていた。

だからか知らないけど、そんな言葉で納得した。

「ちょっと待て。それだけなのか?」

「ん?」

「おかしい。だって、たまたまだったとしても、どうしてこんな部屋があるんだよ。どうしてきちんといろんなものがそろってるんだよ」

「はは、どうしてだろうね」

やっぱり、信じられない。

だって、おかしいのだ。

ハンスはこの屋敷に一人暮らしのはずなのに、子ども部屋がある。

一人暮らしのはずなのに、食器が四つずつある。

一人暮らしのはずなのに……。

「しょうがないなあ。教えてあげようか」

「……」

ぶすっと睨むと、哀しそうに彼は言った。

「寂しかったんだ」

寂しいから、僕らを拾った?

「寂しかったとしても、子ども部屋を二つも作らないだろ」

「そうだね。……オレはこう見えても結婚してたんだよ」

ぶっ。

嘘だろ。

思わず、まじまじとハンスの顔を見ると、彼は恥ずかしそうに顔を伏せた。

「そんなに見るなよ」

「うそだろ」

「嘘じゃない。で、本当は……双子が生まれる予定だったんだ」

「……」

つまり、この部屋はその双子の為の部屋だったのか。

いつか、彼等が大きくなった時の為の。

でも、ハンスは一人暮らしだ。

「……でも、三人とも……ね」

死んだ、のか。

それで、ようやく納得する。

だから、食器は四人分あったのか。

ハンスと妻と、子どもの四人分。

「だから、寂しかったんだよ」

だから、拾ったのか。

「僕達は、お前の子どもの代わりにならない」

「……」

彼は、少し驚くと、笑って言った。

「だとしても、よかったと思ってるよ。僕が君たちを拾わなかったら、君たちは死んでいた」

「偽善者。僕たち以外にも、たくさん僕たちみたいなやつらがいる」

「……そうだね」

それでも、彼は寂しそうに笑っていた。

「この世界は、偽善で満ちている」


町に出ると、ハンスは町行く人に声を掛けられた。

「ハンス。こんど頼みたい事があるんだが」

「今度は何ですか?」

「棚が壊れて」

「良い大工を紹介するから、オレには言わないでください」

「あ、ハンスさん。この前はありがとうねぇ。これ、お礼よ」

「いいえ。ありがとうございます」

「……」

進まない。

話ばかりで、目的地に行けない。

そんなヘンゼルの視線に気づいたのか、ハンスは笑って言った。

「すまないけど、これから行くところがあるんだ。じゃあ」

そう言って、町中を進んだ。

気にいらない。

「ほら、ここが八百屋で、あっちが肉屋。むこうが――」

楽しそうに、町を案内していく。

かなり入り組んだ町で、道を覚えるのに一苦労しそうだった。

「どこに行くんだよ」

「そりゃもちろん、服を買いに」

「……」

なん、だと?

「はい、ついたついた」

服屋に到着すると、ハンスにヘンゼルは無理やり中に入れられた。


「うわ、なにこれ……」

グレーテルは、それを見て驚いていた。

まあ、当たり前だけど。

「これ、ほんとにくれるの?」

「うん。子ども服とかは買って無かったから」

そういって、ハンスは子ども服をグレーテルに渡した。

「ほんとのほんとのほんとに?」

「ほんとのほんとのほんとに」

「まあ、今はまだ起きちゃダメだから、もう少し風邪がよくなったら着てみようか」

「うん!」

笑顔で、グレーテルは頷いた。

……グレーテルは、このままここにいたほうが幸せなのかもしれない。

ハンスは確かに悪い人ではなさそうだし、グレーテルは懐いてるし。

このまま、本当にハンスと一緒にいたほうが……。

「ヘンゼル君にも買ったんだけどね……」

じいっとこっちを見てくるが、何も言わないでおく。

「おにいちゃん?」

グレーテルまでこっちを見てくる……。

「あのな、ほいほい着るわけ無いだろ」

「ヘンゼル君は用心深いからねぇ」

余計なお世話だ。

「そうだよね。お兄ちゃんはひとを疑いすぎるんだよ」

「お前が信じすぎるの」

「ひどーい」



なんで、この時きちんと言わなかったのだろう。

ほんとうは、嬉しかったって。

ほんとうは……。

でも、それはもう終わったこと。

もう、終わってしまったこと。


幸せなんてものは、失ってから、壊れてから、気づくもの。






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