裏六話 魔女の住む、お菓子のおうち
裏六話
魔女の住む、お菓子のおうち
何日も、吹雪が続く日があった。
グレーテルは寒い寒いと言いながら、酷い熱を出していた。
薬も無いし、いつも寝ていた橋の下以外の場所を探すのに手間取ったせいでグレーテルの病状はどんどん酷くなっていった。
僕も気を抜くと眠りかけてしまうのを必死に抗っていた。
もしかしたら、ここで僕らは死ぬのかもしれない。
そんな考えがなんども脳裏をよぎった。
そんな中、ふざけた怪しい男は目の前に現れて、こんな事を言った。
「君たち、オレの子どもにならないか?」
気づくと、ベッドに寝かされていた。
慌てて飛び降りると、辺りを見回す。
子ども部屋だった。
男の子が好みそうなおもちゃや本の置かれた子ども部屋。
どうしてこんな所に?
一番の問題は、グレーテルだった。
彼女が居ない。
「グ、グレーテル? グレーテルっ?! ねえ、どこっ?!」
ずっと、具合が悪かったのに。
まさか――
「妹さんなら、隣の部屋にいるよ」
「っ?!」
扉が開くと、あの男がいた。
突然現れて、子どもになれとか何とか云った変な奴。
「誰だっ」
「あぁ、名乗るのが遅れたね。オレはハンス。魔術師の、ハンスだ」
「……」
警戒して彼から離れる。
すると、ハンスは苦笑した。
「大丈夫だよ。オレは君たちをどうこうしたい訳じゃないから」
「信じられない」
信じられるわけがない。
大人なんて、何を考えているのか分からない。
戦争が嫌だと言いながら、いつの間にか戦争を始める嘘つきだ。
孤児たちを引き取るなんて言って、兵にしようとした偽善者だ。
なにより、僕らが孤児になったのは、大人のせいだ。
「そう。それでもいいよ」
ハンスはそう笑って、部屋を出ていってしまった。
数分待って、彼が戻ってこないか確かめる。
そして……扉に手をかけた。
「……」
開いた。
簡単に開いた。
鍵も何もつけていなかったのだ。
部屋を出ると、少し埃が転がる廊下。
すぐ横に隣の部屋の扉があった。
それに、手をかけてゆっくり開ける。
少し開けて、そして中を見た。
「グレーテル!!」
女の子の好きそうなぬいぐるみや人形に囲まれた部屋。
その部屋のベッドにグレーテルは寝かされていた。
「……、おにいちゃん?」
「グレーテル、大丈夫かっ?!」
「大丈夫だよ。どうしたの? そんなに慌てて」
「だって、いきなりこんな所に……早く、逃げよう」
グレーテルは無事だった。
でも、まだ油断できない。
ここから、逃げないと。
「え?」
「だいたい、ここはどこなんだよ。あの魔術師は意味不明だし、いきなり子どもになれとか、なんだって言うんだ」
「でも、悪い人じゃないよ」
「どうして」
「だって、お話ししたもん」
「……」
それだけで、悪い人じゃないと判断するのはどうなのだろう。
そう考えたけど、何も言わなかった。
「それでも、逃げないと」
「なんで?」
「そりゃ、オレはあやしいからな」
「っ!!」
「あ、ハンスさん」
振り向くと、ハンスがいた。
水の入ったたらいを持って、部屋の中に入ってくる。
「あぁ、言い忘れてた。ここはシェイランドのキルタって呼ばれてる町だ。んで、ここはオレの家。まあ、いきなり子どもになれって言うのは無理だろうけど、どうせ行くところも無いんだろう? 彼女の風邪が直るまではここにいなさい」
「……」
正直、グレーテルのことを出されると、何も言えなくなってしまった。
「お兄ちゃん、どうするの?」
「……」
魔術師の住む、おかしな屋敷。
そこに、僕らは住むことになってしまった。




