裏五話 ヘンゼルとグレーテル
裏五話
ヘンゼルとグレーテル
物心ついたころ、僕達兄妹は捨てられた。
貧しかったからなのか、両親が死んだからなのか、戦争のせいなのか、僕達のせいなのか、知らない。
僕らは捨てられた。
それだけは確かだった。
小さい子どもが二人だけで生活するなんて、無謀なことだ。
でも、周囲の人間は捨てられたネコに餌をあげるように、僕らを憐れんでくれた。
なにかしらの手伝いをお願いする代わりに、食べ物や何かをくれた。
もちろん、生きるために盗んだりすることもあった。
でも、僕らは比較的平和な時代に生きていたから、みんな優しかった。
「いいな……」
「なにが?」
妹は、いつも本を持っていた。
小さい子なら、一度は読むような童話集。
捨てられていたその本を拾って、大事にしていた。
「ヘンゼルとグレーテル」
「どうして?」
「だって、ふたりともすてられちゃったんでしょ? わたしたちみたいに」
「……」
「でも、わるいまじょをやっつけて、おうちにかえるんだよ。それで、こんどはいつまでも幸せにくらしたんだって」
「そうだね」
「いいな……わたしたちも、いつかおうちにかえれるかな?」
「……」
帰れるわけがない。
だって、僕らは両親の顔さえ知らないんだから。
「そんなにいいのなら、グレーテルになればいいよ」
でも、僕はそんな事を妹に言えなくて、だからこんな事を言った。
「そっか! じゃあ、おにいちゃんはヘンゼルだね」
「ぼくまでやるの?」
「そうだよ。おにいちゃんも」
僕らが大きくなるのと比例するように、時代は戦乱を迎えていった。
小さな争いが、大きな戦いになった。
時々大人が話しているのを聞いた。
今度は向こうの国が戦争を始めたらしい。
あっちの国は鎖国をしたらしい。
戦争なんて、いやだ。
みな、気が立っていた。
いつ、この国も戦争に巻き込まれるのか分からないから。
「どうしてみんな、怒ってるの?」
「戦争が始まるからだってさ」
「せんそう? どうしてせんそうがおこるの?」
「さあ? 大人の考えてることは、よくわかんない」
「お兄ちゃんにもわからないことがあるんだ」
「むしろ、多いと思うけどね」
そのうち、僕らのような孤児たちは、大きな施設に入れられた。
そこで、戦う訓練をするのだと、大人たちは言った。
家族のいない僕らを兵士として、捨て駒にして使おうと思ったんだと、後になって気づいた。
でも、それに気づく前に、僕らはそこから逃亡した。
だって、そこに入れられたら、家族と離れ離れになると聞いたから。
唯一の家族、グレーテルと離れ離れなんて嫌だから。
戦争の始まった世界は、僕らに残酷だった。
食べる物も、休む場所も、僕らは見つけられなかった。
町は荒れ、人の心も荒れた。
僕らは生きるために何でもした。
盗んだことがばれて、なんども叩かれたこともあった。
ようやく見つけた食料を、襲ってきた野犬に取られ、大けがをしたこともある。
一番つらかったのは、冬だった。
寒さに震えながら、二人で寄り添った。
そして、死にかけていた僕らは、彼に拾われた……。




