ジャックの苦手なもの そのさん
第十七話
ジャックの苦手なもの そのさん
追いついた先の部屋では、大勢の人々が笑っていました。
「まあ……」
年齢も性別も、まったく違う人々が笑いながら話しています。
こんなに人がいるなんて、どれだけこのお家は大きいのかしら?
きっと、ジャック君の家とは比べ物にならないくらい大きいわ。
「さあ、みなさん。新しい住人が増えましたよ」
女性が、部屋の人々に言います。
すると、みなさん黙ってこちらを見てきました。
「これで、寂しくないわ」
これで、寂しくなんてない。そう、彼女は繰り返します。
彼女は寂しかったのでしょうか?
いや、寂しかったのでしょうね。
だって、死んでもなお、その言葉を繰り返すのだから。
きっと、彼女は寂しかった。
寂しくて淋しくてさびしくて、悪霊になってしまったのでしょうね……。
その気持ちは、痛いほどよくわかる。
私もずっと寂しかった。
ずっと、寂しくて淋しくてさびしくてサビシクテ……。
「酷いわ。貴方はすごく酷い人だわ……」
気がつくと、そう言っていました。
「キャンディー?」
「ジャック君は黙っていてください」
ピシャリと言うと、ジャック君はおとなしく退きました。
「酷い?」
女性は、笑ったままこちらに問いました。
「ええ。だって、貴方にはポチ君がいるじゃない。寂しくても、そこにずっとポチ君がいるのにそれに気づきましないなんて。……貴方は寂しいのではないわ。寂しいと言って、ずっと一緒にいるポチ君には気づかないなんて、自分のことしか見ていないのね。可哀想な人」
ぎこちない動きで、女性は私の元へ歩いてきました。
「ワタシは寂しくなんてないわ。だって、こんなにワタシの家には住人がいるのだもの。ワタシは可哀想な人じゃないわ。だって、こんなにワタシの家には住人がいるのだもの。ワタシは寂しくない。可哀想じゃないだって幸せだものだって幸せだものねえ私は可哀想な人じゃないのだからそんな目で見ないで憐れまないでだってワタシはワタシはワタシはワタシは――」
「私はあなたを憐れんでいないわ。ただ、羨ましい」
「――――」
女性の動きが止まります。
思わず言ってしまったけど、どうしましょう。
ジャック君は何も言わないで私たちを見ています。
ポチ君も無言で様子をうかがっています。
「ポチ君は、貴方に気づかれなくても、記憶から消えても、ずっとあなたを慕っている。それが、羨ましいわ」
「ワタシは……わたし、は……」
「ねえ、もっと周りを見て。そうしたら、きっと寂しくないわ」
だって、ずっと貴方を待ち続ける彼がいるのだもの。
「お前は、寂しかったのか?」
帰り道、ジャック君はそう言いました。
「寂しかった……たぶん。たぶん、そうだったのかも」
女性は、逝ってしまいました。
ポチ君と一緒に。
そうです、ポチ君ももう何年も前に死んでいたのです。
先に死んでしまったご主人様は、すでに悪霊になってしまい、人々を招き閉じ込める屋敷の主人になっていました。
それを、ずっとポチ君は見ていましたのです。
気づかれることもなく、ただ、ひたすら待ち続けていたのだそうで、最期はご主人様の後を追って逝ってしまいました。
「なんだか、ポチ君とジャック君は似ていますね」
いつの間にか暗くなった夜道は、私とジャック君しかいません。
「……どこをどう見たらそうなる」
あきれ顔のジャック君。
「あ、もちろん外見のことじゃないですよ?」
「……」
あら?
ジャック君が黙ってしまいました。
何か変なことを言ったかしら?
「だって、ポチ君もジャック君も、待ってるじゃないですか。大切な人を」
「……そう、だな」
「ジャック君にとって、妹さんは取っても大事な人なんでしょうね」
「あぁ……」
そう言って、ジャック君は微かに笑いました。
ジャック君は、それに気づいてないみたいです。
「なんだよ、人の顔見て笑って」
「いえ。ジャック君は本当に妹さんが大事なんだと再確認しただけです」
そんなふうにジャック君に思われる妹さんは、一体どんな人なのかしら?
すこし、疑問に感じたキャンディーでした。
「……グレーテル」
いつまでもあの館で待ち続けるオレは、確かにあの犬と似ているのかもしれない。
「オレは……」
オレはいつまでも待っているから。
ずっと、ずっと待ってるから。
君が、帰ってくることを。
そうして、キャンディーと共にあの屋敷に帰る。
魔術師の屋敷に。
「みた?」
「みた」
「見つけた?」
「見つけた」
「じゃあ」
「言わないとね」
「じゃあ」
「報告しないとね」
「謂わないと」
「云わないと」
「いわないと」
「イワナイト」
「「彼に言わないと、キャンディーちゃんを見つけたって!!」」
くすくすくすくす
キャンディーとジャックの姿が屋敷の中に消えると、風がざわめいた。
追加登場人物
トルドール・ボルデガルド二世
ポチ
館の女性主人
ポチのご主人様




