ジャックの苦手なもの そのに
第十六話
ジャックの苦手なもの そのに
「あっ、ポチ君」
光が射す方へ行くと、大きな部屋に灯りがついていました。
家具や調度品をみると居間のようです。
そこに、ポチ君はいました。
その横では、笑顔の女性が椅子に座っています。
「ようこそ、ワタシの屋敷に」
女性は、立ちあがってお辞儀をしました。
「まあ、お邪魔しています」
「……」
隣では、ジャック君が不機嫌そうでした。
「もう、ジャック君もきちんと言わないとだめですよ。あ、私、キャンディーって言いますの。こっちはジャック君です」
「これは、ご丁寧に。ワタシはこの屋敷の主人です」
「ポチ君のご主人さまで?」
「ポチ? なんですか? それは」
「え?」
女性の足元で、ポチ君はお行儀よく座っています。
ワンちゃんを飼ったことが無いから、ちょっとうらやましいです。
あら、私ワンちゃんを飼ったこと無かったのね!
「ジャック君! 私、ワンちゃんは飼ったことないみたいです! 今思い出しました!!」
「今、言わなくていいから!!」
「でも、忘れないうちに」
「お前はそんなに記憶力が悪いのか?」
「いえ、結構良い方です」
記憶喪失ですけど。
「ふふっ。愉快な人達ね。これで、この家も明るくなるかしら?」
「そうですよね。ジャック君は面白いですよ」
ジャック君は見ていて飽きませんもの。
「そう、なら、この屋敷の住人になりましょう」
「この屋敷の住人?」
まあ、この掃除を何年もしていなそうな屋敷に?
それは……とても掃除のやりがいがありそうだわ!!
「でも、残念ですが……私、ジャック君の家に住んでるんです」
なんだか、いろいろと謎の多い家ですけどね。
「そう。そんなの関係ないわ。だって、もうアナタ達はワタシの館の住人だもの」
「あらあら、いつの間に?」
「ついさっき」
ついさっき?
まあ、そうなの。
「ジャック君、私たちもうこの館の住人ですって!」
「なわけねえだろ。つか、やめろ。彼女に、常識は通じねえよ」
「はい……?」
「こいつに、話は通じない。だからオレの所に来たのか、トルドール・ボルデガルド二世」
とる……あら?
誰の事かしら?
どこかで聞いたような……。
『にいちゃん、気づいてくれたか……』
ポチ君が、感慨深そうに頷いていました。
いや、わんちゃんが感慨深そうとか私には判りませんけど、たぶんそんな感じかと。
あら、とるなんとかって、ポチ君の名前だったのね。
でも、どうしてポチ君って言うのかしら?
不思議だわ。
そんなポチ君は、ジャック君に言います。
『噂を聞いたんだ。死者を導いて死後の世界へ連れて行ってくれる存在がいると』
まあ、そうだったの。
でも、ポチ君の話は少し間違っているわ。
だって、ジャック君は逝くことの出来なかった霊を導いくけど、死後の世界にまで連れていったりしないもの。
『お願いだよ。彼女を、導いてくれ』
彼女……それは、この館の持ち主の女性でした。
「……あぁ。そうだな」
ジャック君は、そう言うと私の手を離してポチ君と女性の元に歩きはじめました。
「ワタシの屋敷にようこそ」
「……」
「さよならなんて言わせない。もう、貴方はこの館の住人なんだから」
女性は笑っています。
まるで、現実を見てないようでした。
彼女は……狂ってしまった悪霊なのね。
ジャック君は、無言で彼女に斬りかかり――踊りかかってきた影に体当たりをされて飛ばれ、壁にぶつかりました。
「ジャック君!?」
思わず走りよると、ジャック君は不機嫌に女性の方を見ました。
「どういうつもりだ」
『どういうつもりも何もない!! お前こそどういうつもりだ!』
そう、体当たりをしてきたのは、ポチ君でした。
毛が逆立ってます。
気のせいか、唸り声も聞こえるし、すごく怒ってるみたいだわ。
まあ、この場合は当然だと思うけど。
「ジャック君、いきなり人に斬りつけるなんて、ダメですよ!!」
「もう、あれは人じゃない。ただの悪霊だ」
「それでも、ポチ君にとっては大事な人のはずです。そうですよね?」
ポチ君は、鋭い目でこちらを威嚇しています。
『そう、だ……だから、もうこんな事をして欲しくなかった……』
女性が、立ちあがりました。
ポチ君を見ることもなく、そのまま歩いていきます。
歩いているはずなのに、妙に移動が速いです……走ってないのに、すごいわ。
それを、ポチ君は慌てて追いかけました。
さらに、ジャック君がそれを追います。
「あらあら」
何がどうなってるのかしら?
それより、ジャック君ったら私には離れるなって言ったのに、自分はさっさと行っちゃいました。
「あら?」
よく考えると、私、置いてかれた?
「待って下さい!!」
もう、みなさんせっかちさんなのね。
私を置いていかないで欲しいものだわ。
とりあえず、ジャック君達を追わないと。
先に行っているジャック君達を追ううちに、不思議な事が起こっていきました。
「掃除が……してある……?」
まあ、綺麗だわ。
……私の出番が無くなっちゃったみたいね。
進むたびに、辺りが新品のようにぴかぴかになっていきました。
「あら?」
部屋を覗くと、楽しそうに子どもたちが遊んでいました。
「……き、気になる」
どうしましょう。
ちょっと、寄っていきたいわ。
でも、ジャック君達は先に行っちゃうし……。
後ろ髪をひかれながら、ジャック君達を追います。
さらに、お茶を楽しむ人達や、チェスに興じる人々、読書を楽しむ人がそれぞれの部屋にいました。
「もうっ、ジャック君達ったら、早いんだから!!」
廊下の突き辺りまで行くと、ようやくジャック君達に追いつきました。




