裏一話 ジャックとシンデレラ
裏一話
ジャックとシンデレラ
ここは、行くべき所に逝けない霊達が、最終的に辿り着く館、
ジャック・オ・ランタン
そこで、オレンジ色の髪で片目を隠した少年が、霊達を出迎える。
ジャックが目を開けると、そこには少年が立っていた。
「あれ?」
「ようこそ、ジャック・オ・ランタンへ」
「……」
緑色の髪に、灰色の瞳の少年。
彼はまじまじとジャックを見ると、笑いだす。
「うわっ、本当にジャック・オ・ランタン? あ、ボク死んだの? いやだなあ。ほんと、笑っちゃう!」
「は?」
なんだ、こいつ。
そう、ジャックが思ったのも、仕方ないことだった。
「ボク、アルトって言うんだ。君は?」
「……ジャック」
「へー。ジャック……ジャック・オ・ランタンのジャック? そのまんま!」
「……意外だな。若いのに、オレ達の事知ってんのか?」
「うん。まさか、本当にいるとは思ってもいなかったけど。あっ、ムラサキに教えたら喜ぶかも!……ぁ……」
「?」
馬鹿騒ぎをしていたというのに、突然黙りこんでしまった。
「ボク、死んじゃったんだった……」
「……」
この館に来る者は、大抵は死者だ。
彼も、死者だ。
死者は生者と会う事は出来ない。
「死んだって事を自覚しているのなら、あなたの前に広がる道が見えますよね?」
「……そう、だね」
「……」
「……」
少年は、困ったように笑う。
「でも、まだ逝けないや」
微かな、哀しみを伴う笑顔だった。
「そうですか」
「止めないの?」
「あなたのような人は、ときどきいますから」
「そっか」
時々、迷ってこの館に辿り着き、死んだとわかってもなお、逝かない人もいる。
「ボク、約束したんだ」
「?」
「死なないって」
しかし、彼は死んでしまった。
「約束破って、死んじゃった。……だから、せめて……まだ、逝きたくない」
そう、彼は笑うと、ジャックに背を向ける。
「なるほど……まあ、いいんじゃないのかな」
そう、彼の背中に言葉を贈った。
「ボク、あの子を残して逝けないから」
そう言って、彼は消えてしまった。
たぶん、その、『あの子』の元へ。
「ああいう奴らばっかりだったら、良いんだけどな……」
こっちの説明も無く自分で死んだことに気づいたり、きちんと理解して死を受け入れたり。
説明の手間も、説得とかも、しなくていい。
それを、出来ない人もいる。
死んでいる事に気づかない、死を受け入れない、理解できない。
そんな人々は、どうなってしまうのか?
「憂鬱だ」
そんな彼等は、もはや死者ではない。
そして、それを狩るのが、ジャック・オ・ランタンの仕事……。
館の扉が叩かれた。
黒マントで姿を隠した男が館に入ってきた。
「……仕事だ」
それだけ言うと、また外へ行ってしまう。
「了解」
そう言うと、急いでその後を追った。
追加登場人物
アルト
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