ジャックの苦手なもの そのいち
第十五話
ジャックの苦手なもの そのいち
その日、私はジャック君の苦手を知りました。
「ジャック君、なにやってるんです?」
「……い」
「い?」
「いぬ……が……!!」
えーっと?
いつもジャック君のいる書斎。
机をバリケードのようにして、ジャック君はしゃがみこんでいました。
そして、その向こうには、かわいいわんちゃんがいました。
真っ黒の大きなわんちゃんです。
「まあ、どこからはいってきたのかしら?」
玄関はきちんと閉めているし、窓もさっき閉めたし。
それにしても、ジャック君ったら恐がりなのね。
「わんちゃんは、どこかから逃げてきたのかしら?」
赤い首輪がついていました。
鎖が切れてしまったのかしら?
「は、早く家から出せ!!」
「そうだ! ジャック君、この子の家を探しましょう!」
「断る!!」
「きっと、ご主人さまも心配しているわ」
「話聞け! お願いだから、早く外に出せ!!」
「そうね。わんちゃんお家はどこなの? 送っていくわ」
『本当か? いやー、ちょうどにいちゃんにも用があったんだ丁度良かったわー』
「は?」
「あら」
まあ、最近のわんちゃんはしゃべるのね。
そんな私をよそに、ジャック君はいつの間にか柱の影で震えていました。
「まあ、わんちゃん君はトルドール・ボルデガルド二世と言うんですか」
『いやー。家では名前が長いんで、ポチなんて呼ばれてたんだけどなー』
「どこがポチだよ! 名前のどこにポチなんて要素が入ってるんだよ!!」
私達は、町に出ていました。
ポチくんの案内で、ポチ君のお家へ向かいます。
因みに、ポチ君の家はジャック君の家のあるキルタタウンの南の方に在るみたいです。
でも、ジャック君は私とポチ君から半径三メートル以上離れてついて来ていました。
ジャック君はわんちゃんが嫌いなようです。
ふっふっふっ、ジャック君の弱みを発見しちゃいました。
「なあキャンディーこいつ置いて帰ろう。てか、帰ろう。本気で」
「でも、送っていくって言いましたし」
「犬なら一人で帰れる」
『にいちゃん、いじわるやなー。それに、用があるって言ってんだろ』
「……なんで犬にそんな事言われなきゃならないんだ」
ジャック君、なんだかどんどん元気が無くなっています。
「ところでポチ君」
『なんだ?』
「ポチ君のようってなんですか?」
『にいちゃんにまあいろいろ』
「ジャック君にですか?」
『あぁ』
ジャック君を、じっと見つめます。
「な、なんだよ」
三メートル離れた所で、ポチ君に怯えています。
「あんな子にですか?」
『……まさか犬嫌いとは思って無かったから』
「お前ら、どうせ犬の恐さなんて知らないんだろうな……。あいつら、怖ろしいんだぞ。こっちが弱いと見ると、集団で襲ってきやがって……しかも足早いし鼻は利くし……」
なんだか遠い目をして言います。
ジャック君、なんだか知らないけど、大変だったのね……。
「……特に野犬は凶暴で……」
ジャック君、一体何があったのかしら?
『お、ほらここや。ここが、うちんち』
そう言って、ポチ君は止まりました。
「まあ、大きな家」
ジャック君の家の数倍ありそう。
「……見事に幽霊屋敷だけどな」
そう、その家はここ数年人の手が入れられていないようで、とても荒れていました。
庭の草は伸び放題、窓ガラスは割られ、壊れかけた扉が開いています。
『昔はもっと立派だったんだ……でも、家は廃れた』
ポチ君は、迷う様子も無く開いていた扉から中に入って行ってしまいました。
「あ……」
どうしましょう。
ふと、ジャック君を見ると、ジャック君は真剣な瞳で屋敷を見ていました。
「ジャック君?」
「キャンディー、来るなよ」
「はい」
この屋敷にジャック君は用があるみたいです。
とりあえず、頷いておきましょう。
「って言ってもお前来るだろ」
「あ、ばれちゃいました?」
「オレから離れるなよ」
「え……はいっ!」
ジャック君は、私の性格をわかってきたみたいです。
ちょっと、嬉しかったりしたりしなかったり。
屋敷の中に入ると、埃がたちました。
何年も塵と積もった埃……。
ああっ、掃除!!
「ジャック君、さあ掃除しましょう!」
「いや、そんなことしにここに来たわけじゃないから!」
あっちこっちにクモの巣が張ってるし、家具が倒れたり荒らされたりしているし……嗚呼っ、最初のジャック君の家より汚いわ!!
「来る……」
「なにがです?」
ジャック君は、私の問いに応えず、ただ白銀の鎌を出すと短剣に変えました。
うーん。
いつも思うのだけど、これって一体どんな金属で出来ているのかしら?
そもそも、さっきまでこんな鎌をジャック君は持ってませんでしたし。
「不思議だわ」
ジャック君は、不思議です。
「お前の方が不思議だ」
「そうですの?」
「それよりも、本当に離れんじゃねえぞ」
「はい」
私が頷く前に、何かが横を走りました。
「あら?」
ばたん
扉が閉まります。
まあ、風かしら?
何があったのかとあたりを見渡そうとすると、突然窓の外が真っ暗になってしまいました。
「あら、もう夜なのかしら?」
「いや、違うどう考えても違うだろ!! ……閉じ込められた」
「え?」
ジャック君は閉まってしまった扉を開けようとしますが、開きません。
「あらあら。ジャック君ったら、なに捕まっちゃってるんですか」
ジャック君、ピンチです。
「……一応、お前も捕まってるって自覚ある?」
「あ、ほら! ジャック君、あっちに灯りが見えますよ」
「話聞け!」
窓の外が暗くなってしまったので、家の中は真っ暗。
すぐ近くにいるジャック君の姿くらいしか見えません。
まあ、なんの光かしら?
もしかして、ポチ君のご主人さま?
それとも……。
とりあえず、ジャック君の手を掴みます。
「な、なんだよ」
「離れちゃいけないんですよね? じゃあ、このままいきましょう」
「ちょ……」
あら、ジャック君が動揺してる……?
「もしかしてジャック君……暗い所苦手です?」
ワンちゃんに続いて、暗闇までっ?!
今日は、いろいろと収穫があるわね。
「ち、違う! 別にそう言う訳じゃないと言うか、なんて言うか、その……とりあえず、行くんだろ」
「? はい、そうですね。行きましょう」
なぜか赤くなったジャック君と手を繋ぎ、その光に向かって歩きました。
まあ、ジャック君ったら熱でもあるのかしら?




