キャンディーは嘘をつきました
第八話
キャンディーは嘘をつきました
日は、沈んでしまいました。
真っ暗な夜道を、私とジャック君は歩きます。
「で、キャンディー」
「なんですか? ジャック君」
「このバカ! なに迷子になってんだ! しかも悪霊なんかと遊んで!!」
「えぇっ? あの子たち、悪霊なんですか?! ところで、悪霊ってなんですか?」
「……お前な」
まあ、額に青筋がっ。
ジャック君、堪忍袋の緒が切れそうです!
でも、堪忍袋ってどこにあるのかしら?
「逝けない死者は、時として生者を呪う。その理由はそれぞれだが、悪霊になったやつらは居るだけでも生者に影響を及ぼす。それが悪霊だ。地域によってはそれを鬼だとか悪魔だとか言うけどな」
「まあ、そうなんですか」
「お前、本当に自分の置かれた状況わかってたのか?」
「え? 遊んでいただけですけど?」
「……あいつら、お前に憑いてたぞ」
「?」
「憑いて、力を奪って、どんどん実体化していた」
「実体化? あ、もしかしてどんどん人数が増えてたのは、そのせい?」
まあ、そうだったのね。
どおりでどんどん遊んでいる人数が増えていると思ったわ。
「普通の人間が憑かれても、死にかける奴だっているんだぞ。お前、今回は無事だったけど次はどうなるか……生き霊であることを自覚して気をつけろよ」
「ところで、あの子たちはどうしてあそこにいたのかしら?」
「お前な……」
ジャック君はため息をつきますが、教えてくれました。
「きっと、戦争で死んだ子供たちだ。さっき言ってただろ? 町の中心部は大規模魔術に巻き込まれて崩壊した。その時に死んだのに、死んだことに気づかなかった子どもたちの集合体……だから、生前何時も遊んでいた所にいたんだ。家は、壊れたり、壊されて新しく建築されたりして、居るべき場所も、帰るべき場所がも無くなってしまったから」
そんなきりのいい所で、お家に到着しました。
次の日。
「ジャック君……私、なんだかすごく疲れてます……」
なんだか、体が重いし、熱っぽいし、あら?
これって風邪の症状?
でも、生き霊って風邪をひくのかしら?
「当たり前だろ。あれだけの霊に憑かれてたんだぞ。これで疲れてなかったら、お前人間じゃないぞ」
よかった、じゃあ人間なのね、私。
「うぅ、なんか、だるいです」
「向こうの部屋でじっとしてろ」
「はい……」
とりあえず、近くの部屋に行きます。
そこは子ども部屋で、女の子が使っていたような形跡がありました。
そこで、休憩。
「ジャックくーん」
「なんだよ」
「窓、開けといてください」
「は?」
「いい空気を吸いたいので」
「はいはい」
今日は、ちょっと優しいジャック君でした。
でも、ごめんなさい。
キャンディーはちょっと嘘をつきました。
別に、いい空気を吸いたいわけじゃないんです。
いつもの書斎に戻ると、ジャックは電話を取った。
「アネサン? オレだ。お前に頼みがある。……は? お、お願いします、アネサン。これでいいか?……それが、ちょっと面倒な奴がいて……生き霊……はいはい。わかってる。じゃあ、今度……」
短い会話を済ますと、いつもの椅子に座った。
「まったく、世話のかかる……」
考えるのは、キャンディーの事。
よく思い返すと、あのまま探さなければキャンディーとは縁を切れたかもしれない。
最初のころは早く出てい家だとか言ってたのに。
「オレって甘いのか……?」
見た目、十二歳の子どもだから、侮られることはよくある。
でも、あんなふうに振り回されるのは初めてだ。
「……一体あいつ、なにもんなんだよ」
アルトには危険だと言われた。
キャンディーの事を調べているはずのレガート・レントから、まだ何も連絡は来ていない。
平気で人の保護者ずらして、勝手にハゲ認定しやがる。
悪霊に憑かれても、疲れるだけ。
「……」
あの時、キャンディーには言わなかった。
あれだけ沢山の悪霊を議った行かさせるほどの力を奪われて、まだこの世界に存在しているキャンディーは、異常だ。
普通の人間だったら、生き霊じゃ無くても死亡したり二度と目覚めなかったりする。
それなのに……。
ふと、様子が気になってあの部屋に向かった。
ちょっと開けてみると……部屋は、もぬけの殻だった。
「あいつ、何処行きやがったっ?!」
開いていた窓から、曇天が見えていた。
ジャックは、昨日の原っぱに来た。
そこで、キャンディーを発見する。
たぶん、開いた窓から外に出たのだろう。
窓を開けて欲しいって、この為だったのか。
そんなキャンディーは木に登って誰かを待っていた。
「おい」
「あ、ジャック君」
木の下まで行くと、キャンディーはいきなり飛び降りた。
「お、お前っ!」
そのまま、ジャックを潰す。
「がはっ」
「着地、成功です!」
「……重っ。成功じゃねえよ! どこが成功だ! オレ潰して……しかも重っ!! 早くどきやがれ!!」
「まあ、重いなんて女の子には禁句ですよ?」
「ほんとのことだ」
しぶしぶどいたキャンディーは、どこか遠くを見ていた。
「来ません」
「誰が?」
「昨日の子達」
「当たり前だ」
「でも、約束したんです。今日も明日も、遊ぶって」
「あいつらは、逝った。もうここには来ない」
「……また、会えますか?」
「さあ?」
ハロウィーンや盆、年末には霊たちが戻ってくる。
その時なら、会えるかもしれない。
あと、もうひとつ。
この世界で、輪廻転生があるとか、ジャックには判らない。
ただ、死者を導く事がジャックの役目だから。
でも、もし生まれ変われるのなら。
「いつか、会えんじゃねえの?」
「そうですか」




