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一夜の魔法亭 1 ~ただ茶屋番外編~  作者: ゆずはらしの
夏至の夜の不思議な時間。
7/25

魔法使いと、●るねるねるね。1



* * *



 店主が持ってきてくれたのは、鮮やかな色の巻きスカートだった。


 ティラミスは礼を言って受け取り、その場で巻き付けようとし、ウィルフレッドに叱りつけられた。足を見せるのが、とにかくいけないらしい。

 店主に手洗い所に案内され、マントを巻き付けたまま、ちょこちょこした足どりで歩く。

 物陰でマントを外し、巻きスカートを巻き付けて、あたし、何やってるんだろうという気分になった。



(なんか、あたしもコスプレしてるみたい……)



 それでも、外国人だらけの店内を見て、マナーが違うんだろうと自分を納得させ、ティラミスはウィルフレッドのマントをたたんだ。

 マントは古びており、あちこちがほころびている。色もねずみ色と言うか、薄汚れた感じだ。



「洗濯、してないのかな。洗ったら、水がすごい色になりそう」



 このマントが家にあれば、自分はぼろとして捨てるだろう。



「まあ、でも、男の人って、変なものに思い入れして、記念にしたりするしなあ」



 初めて運転した車のワイパーだとか、切れたベルトだとか。がらくたにしか見えないものを、後生大事に持っていたりする。

 父がよい例だ。ゴミだと思って捨てようとした母との間で、大騒ぎになったことがあった。



「うん」



 けれど、ウィルフレッドが自分を気にかけてくれ、目立たないように守ってくれたらしいことは、確かだ。

 俺さまな性格な男だし、自称『騎士』なコスプレイヤーだが。

 それでも、お礼を言うべきところでは、言わないと。



「洗ってあげようか。それぐらいはしても良いよね」



 そうつぶやいて、ティラミスは、ウィルフレッドのいる所へ戻ろうとした。そこで、声をかけられる。



「おや。おや。外の匂いがする娘さんだね」



 ティラミスがそちらを見やると、背の高い男が佇んでいた。

 肌の色は異様に白い。というより、青白い。黒い髪をぞろりと伸ばし、ずるずるしたローブをまとっている。

 顔だちは悪くはないのだが、薄青の目は、どこか焦点が合っていない感じで、なんとなく気味が悪いと感じてしまう。



「魔法使いのコスプレイヤー……」



 思わずつぶやくと、男は首をかしげた。



「わたしは魔法使いではあるが、こす、ぷれ? とは何のことだ?」



 なりきり屋さんがここにも。


 ウィルフレッドの対応で免疫のついていたティラミスは、「いえ、こちらの話です。別になんでもありません」と言って流した。

 こういうなりきり系のコスプレイヤーに、下手に何か言おうものなら、怒り出したり、長々と妙な説明をされたりして、大変なのだ。ウィルフレッドで身に染みている。



「ふむ。外のお嬢さんは、何を代償にここに入ったのだね」

「代償って……参加費でしょう? あたしは、ビタミン剤のタブレットを……」

「なに。なんの石版だって? どのような魔術のたぐいだ」



 いきなり、身を乗り出された。



「ま、魔術って、そんなのじゃないです、あの。薬です。栄養補給用の」

「ほう? 薬物か。それは良いな。どのような作用のものなのだ?」



 自称『魔法使い』の目が、らんらんとしている。なんだろう。危ない気がする。



「さ、作用、……あの。ただのビタミン剤で。えっと」



 ビタミンの作用ってなんだっけ?



「おまえが作った薬なのか?」

「とんでもない! あたしは買ってきただけで」

「ほう。それで、びたみん、というのは?」

「え、えー、えーと」



 おろおろしていると、誰かにぐい、と肩をつかまれた。そのまま引っ張られる。

 ひゃっと悲鳴を上げたが、気がつくと、ティラミスはウィルフレッドの背中を見ていた。



「このものに、何か用か」




 目つきの危ない自称『魔法使い』に、自称『騎士』が問いかける。

 背筋はぴんと伸びており、腹に響く低音の声に、ティラミスはうっかり、



(カッコイイ……)



 と、思いかけた。思ってしまってから慌てて首を振ったが。

 ダメだ。なりきりコスプレイヤーを、かっこいいなんて思ってどうするんだ。



「薬物について質問していただけだ」



 男はウィルフレッドに、どこか下に見るような、嫌なまなざしを注いで言った。しかしウィルフレッドは、まるで取り合わなかった。静かに言う。



「これは店主の個人的な知り合いだ。そちらの好奇心を満たすようなものは、何も持っておらん」

「そうかね。騎士とは律儀なものだな」



 嘲るような笑い声を上げてから、魔法使いの姿をした男は、ティラミスに目をやった。



「外の匂いのお嬢さん。良い守り手がいて幸いでしたね。

 びたみん、とやらには心が残りますが、ここはその騎士の顔をたてて、退散しましょう」



 そう言うと、するり、と身をひるがえし(本当に、するり、としか表現できない、ヘビめいた動きだった)、人込みの中にまぎれてしまった。


 ウィルフレッドはしばらく、男の後ろ姿を見つめていたが、ティラミスのほうに向き直ると、むっつりした顔で言った。



「なんの話をした」

「なんの……って。別に何も」

「何か渡したか。品物や、名を交わしたりしなかったか」

「え、え? 何も……名前って?」

「あの男に名乗ったか。自分の名を」

「え? そんなことしてない……それがどうかしたの?」



 ウィルフレッドは、ふー、と息をつくと、ティラミスの腕をつかんだ。



「行くぞ。おまえは危う過ぎる」

「え? えっ、ちょっと! なんなのよ、ちょっと~~~!」



 ぐいぐい引っ張られて、食事の置いてあるテーブルに連れて行かれ、ティラミスは憤慨ふんがいした。なんなんだ、この強引男!

 かっこいいなんて、ちょっとでも思うんじゃなかった!


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