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一夜の魔法亭 1 ~ただ茶屋番外編~  作者: ゆずはらしの
夏至の夜の不思議な時間。
5/25

ハロー、コスプレイヤー。3

「そんなに良く落とすものなのか?」

「イヤリング? まあね。だから安いのしかつけないよ~。今日のも安物」



 ティラミスは自分の耳に触れた。今日つけているのは、シンプルな金色のイヤリング。くるりと輪を作り、細い金属を編み込んだようなデザインになっている。

 繊細な感じが何となく気に入って買った。色も渋めに抑えてあるので、あまり安っぽい感じにはならない。

 さすがに仕事中にはつけないが、仕事が終わればちょっとつける。



「安物なのか? 良い細工のように見えるが……こういうものは、俺には良くわからんしなあ」



 首をかしげてから、ウィルフレッドは続けた。



「この耳飾りを渡せば、薬を渡さずとも良かったのではないか」

「ええ? これワゴンで千円だったけど、タブレットは一袋五百円ぐらいよ? コンビニのだし」

「ワゴン?」

「ワゴンセール」

「ワゴン……を、売るのか?」

「もう、なにボケてるのよ。店に売れ残った商品とかを安くして売るやつじゃない。

 ワゴンにざらっと乗せて、お客さんが一目で商品を選べるようにしておくの。

 あれ、考えついた人って、えらいわよね。ぱっと見て、何があるかわかるし。一つだけじゃなくて、ついつい、他のも買いたくなっちゃう」



 ティラミスの言葉にウィルフレッドは首をかしげていたが、「そういうものか」とつぶやいた。



「女性(にょしょう)の買い物は、俺にはさっぱりだ」

「うわあ、実感こもった一言。彼女に付き合わされたりしたことあるの?」



 ティラミスが笑うと、ウィルフレッドはむっとした顔になった。



「母上と妹にだ。あれが良いこれが良いと、あちこちひっぱりまわされた挙げ句、最初の店に戻ってきて、とんでもない金額のものを買わされた」

「お気の毒さま」



 財布扱いされたのか~、とティラミスは思った。荷物持ちもさせられたんだろうなあ。力ありそうだし。



「どうしてああ計画的でないのだ、女性の買い物は」



 ぼやくウィルフレッドに、ティラミスは苦笑した。



「サー・ウィルは、何を買うか決めるまで、じっくり考えるタイプなのね。それで目当てのものが決まったら、一直線でそれ買って、さっさと帰っちゃう感じじゃない?」

「それで問題はないだろう」

「うん、男の人ならね。でも、女の子は違うんですよー」



 ティラミスはスムージーをすすった。



「どう違う」

「まずね。女の子……と言うか、女性の買い物っていうのは、目的が目的じゃないの。コミュニケーションの手段なのよ」

「コミュ……?」



 ウィルフレッドが見かけによらず、外来語にとまどう事を知っていたので、ティラミスは言い直した。



「人間関係を円滑に……うまく形作る? 交流って言うの?」

「買い物が?」

「そうよ。お母さんと妹さん、品物を見たり選んだりしながら、いろいろしゃべってたんじゃない?」

「ああ、何やらしゃべりつづけていたな。良くわからんので聞き流していたが」

「サー・ウィルらしいわ……あのね。あれで、女性は人間関係を作ろうとしているのよ」



 ウィルフレッドは眉間にしわを寄せた。



「意味がわからん」

「わからなくても、そうなの。いろんなものを見たり、聞いたりしたいのよ、女性って。

 だから気の合う人同士でしゃべって、自分の気持ちを確認したり。楽しいと感じる気持ちを長くつづけようとするの。

 買い物も、何かを買おうとする、動機はあるけど。選ぶのが楽しいっていうのもあるから。その気持ちを長く続けようとしてるのね。

 お互いにしゃべっていると、お互いの近況もわかってくるし。

 それに、女性の情報収集能力って、馬鹿にできないのよ」

「そうか?」

「そうよ。どこのお店が安いか、どこのお店が美味しいか。

 誰のところに子どもが生まれたか、誰の家族が病気になって入院したか。

 うちの母見てるとわかるんだけど、一番早く情報が回るのは主婦なのよ。

 特に美味しいお店の情報なんて、そこらのタウン情報誌より、よっぽど詳しいわよ。

 子どもが病気になったら、どこの病院が良いか、どんな薬が良いか、そういう情報もすぐ回るわ。

 男の人が気がつかない所、見ているのも、普通の家庭の主婦よ。どこの会社でも、主婦を馬鹿にする所は伸びないわ。主婦からの評判が良くて、初めて業績が伸びるのよ」



 ちょっと言い切りすぎかとも思ったが、ティラミスはそう言った。ウィルフレッドはなぜか、真面目な顔で聞いている。



「そういうものか」

「そうよ」

「そう言えば、母上は、近隣のことで、思いも寄らない事を良く知っていたりしたな」

「主婦だからでしょ」



 ウィルフレッドは何やら考え込んでいる。


 そこへ、店主がやって来た。



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