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一夜の魔法亭 1 ~ただ茶屋番外編~  作者: ゆずはらしの
夏至の夜の不思議な時間。
4/25

ハロー、コスプレイヤー。2



* * *



 料理は美味しかった。



「このカクテルも美味しい~」



 いつもはお茶とお菓子の店なのに、今夜は大盤振る舞いだ。たれをつけて焼かれたチキンやビーフの、ハーブの香りがたまらない。

 口当たりの良いカクテルに、つい、二杯、三杯とお代わりをしていると、



「そろそろやめておけ」



 と、声をかけられた。



「あら、サー・ウィルフレッド」



 むっ、と眉間にしわを寄せている男性は、以前、この店で出会った『騎士』を自称しているコスプレイヤー。

 金髪に灰色の目、がっしりとした体格の渋いハンサム。

 けれど、自分を騎士だと言い張り、ファンタジーな衣装をまとってうろつく辺り、台無しだとティラミスは思っている。

 ちなみに、呼びかける時には、『サー』をつけないと怒られる。どこまでこだわっているのだか。


 彼は手に、ジュースの入ったマグカップを持っていた。



「あら? ジュース? そんなのもあったの?」

「スムージーとか言うらしい。向こうにある」

「スムージー? 果物とかをミキサーでがーっと回して作るやつよね。飲みたい~」



 楽しくなってきてけらけら笑うと、「もう酔ってるのか」と呆れた顔をされた。



「酔ってません~。ね、良かったねえ、サー・ウィル」

「なにがだ」

「だって、今夜はコスプレイヤー大集合じゃない。サーも浮いてないよ~、そのカッコ」



 ウィルフレッドはいつも通り、騎士の服装をしている。中世風ファンタジーな衣装は、布地のくたびれ加減や裾のほつれ具合などが、妙にリアリティを出している。



「その、こす、何とかは良くわからんが。これだけ色々なものが集まると、おまえの姿も目立たんな」

「え~? あたしはフツーですよう」

「そんなに足を丸出しにした服装のどこが普通だ。はしたない」

「足ぃ?」



 ひょい、と座ったままで足を振り上げると、ウィルフレッドが慌てた顔になった。



「ばか、足を下ろせ! 見える!」

「やだ、えっち」

「何が……ああ、もう。この酔っぱらいが!」



 がしがし、と頭を掻くと、ウィルフレッドはマントを外した。それでティラミスの下半身をぐるぐる巻きにしてしまう。



「え? へ? なにこれ?」

「そうしておけ! 若い娘が足を見せるな!」



 何が何だかわからずマントを引っ張ると、怒鳴られた。びっくりして目を丸くしていると、マグカップを突き出された。



「飲め」

「あ、はい」



 スムージーは冷たくて、すっきりする味だった。ぼんやりしていた頭もはっきりする。



「あ~、これ美味しい……」

「酔いは醒めたのか」

「最初から酔ってません~。なんか、お客増えて来たね」



 店の中が、混雑してきた。誰もが変わった衣装をまとっている。



「今夜は仮装OKだったの?」

「かもな。そう言えばおまえ、なにを代償に支払ったんだ?」



 ウィルフレッドに尋ねられ、ティラミスはまばたいた。



「代償? ああ、参加費? ビタミンのタブレットだけど」

「びたみん、のタブレット? 何かの呪文の石版か?」

「なんで石版なの。栄養剤よ。コンビニで良く売ってるたぐいのやつ。

 あんなので、本当に良かったのかしら」

「栄養剤……ああ。薬物のたぐいか。それは喜ばれるだろうな」

「薬物って、そういう言い方するとヤバイものみたいに聞こえるんだけど……喜ばれるの?」

「薬はどこでも貴重だろう」

「そうなの? 良くわからないけど。サー・ウィルは何を渡したの?」



 ウィルフレッドは、苦虫をかみつぶしたような顔をした。



「新しい短剣を一つ、持って行かれた」

「短剣? 高いものなの?」

「さほど高くはない。だがな。騎士から武器を取り上げるなど……」



 ああ、そっちで嫌だったのね。とティラミスは思った。いつも思うのだが、彼のなりきりぶりは見事だ。徹底している。



「んー、まあ、良いじゃない。今日は楽しく過ごす日でしょう。

 美味しいもの食べて、楽しく騒げば良いのよ。短剣も、換え時だったのかもよ?」

「換え時?」

「うん。あたし、イヤリング良く落とすんだけど。片方だけね。二つそろっていないと、使えないじゃない、イヤリングって。

 で、がっくりくるんだけど。そういう時、こう思うことにしているの。

 換え時だったんだ! 新しい、かわいいのを買うぞ! って」

「騎士の短剣と、女の身を飾るものとを一緒にするな。しかし……まあ、わかった。そうだな。新しく、良い一品をあつらえれば良いか」



 ウィルフレッドはそう言ってから、ティラミスの耳を見た。


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