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一夜の魔法亭 1 ~ただ茶屋番外編~  作者: ゆずはらしの
夏至の夜の不思議な時間。
3/25

ハロー、コスプレイヤー。1



 ティラミスとおばばが店に入ると、中には既に、大勢の客が集まっていた。



「盛況じゃのう」



 店の中は、笑い声とおしゃべりで満ちていた。



「お店の中もなんだか……違う?」



 ティラミスはまばたいた。店の中が、いつもより広くなっているような気がする。

 壁は、あんなに向こう側にあっただろうか。

 柱は、こんなに本数があっただろうか。

 天井が高い。梁の様子も違う。天窓。あんな所に窓なんてあっただろうか。

 テーブルの数も増えているような。いや、絶対増えている。

 奥にあるのは石造りの暖炉。本物の火が燃えている。けど。あんなの、この店にあったっけ???



「うむ、見事に夏至じゃな!」



 だからなぜ、それで片づけるんだ、おばばさま。とティラミスは思った。



「このお店にこんなに人がいるのを見たの、初めて」



 疑問は尽きないが、おばばさまからは、まともな返事は期待できないらしい。とりあえず店の様子は置いておいて、ティラミスは、集まった客を興味深げに見やった。


 みな、きらびやかな衣装をまとっている。



「コスプレイヤー発見。すごいなあ。中世風の衣装。あの羽、どうやってくっつけてるんだろ」



 集まった客の服装はまちまちだったが、ファンタジー風の衣装や中世ヨーロッパ風の衣装を着ている者が多かった。

 知識はあまりないのだが、たっぷりと布地を取り、刺繍の入った服装は、何だかすごい。

 魔女や妖精の姿の者もいる。なかなか楽しい集まりのようだ。



「あ、ここもあのランタンなんだ」



 ティラミスは、やわらかな光に目をやった。街灯と同じようなデザインのランタンが、机や棚、床に置いてある。その灯が、店内を照らしていた。

 客もみな、ランタンの光に彩られて、何となく夢の中の人物のような印象になっている。



「いらっしゃい。二人で来たのですか」



 店主が声をかけてきた。



「おお、そこで出会うてな。招待状は持っておったが、不安そうだったので、連れてきた」

「あー、はい。良く迷っちゃうので、不安で。おばばさま、ありがとうございました」



 おばばが答え、ティラミスも付け加えてから、おばばに礼を言った。



「招待状を拝見しますね。はい、ありがとうございます。

 あちらに、飲み物と料理がありますよ。セルフサービスですので、お好きにつまんで下さい」



 店主の言葉に見やると、大きなテーブルの上に大皿がどん、と置かれ、料理が盛られており、飲み物を入れたピッチャーやグラスも置いてある。



「あ、あの、参加費とかいりますか?」

「あ、参加費はお金じゃないんですよ。それぞれのお客さんが持っている品を一つか二つ、いただいています」

「品を?」

「わしはこれを持ってきたよ」



 おばばがそう言うと、きらきらした砂の入った瓶を取り出した。



「何の呪文です?」



 店主が首をかしげる。おばばが答えた。



「ノミ除け、ゴキブリ除け、ハエ除け。ネズミ除けも入っとる」

「効くんですか?」

「失礼じゃな。一応、確かめたわ。それなりに効果はあったぞ」



 店主がうなずいて、受け取っている。



「あたし、何か持ってたっけ……?」



 ティラミスはバッグを引っかきまわした。その結果出てきたものは、コンビニで売っていたビタミンのタブレットが入った袋(二つほど食べた後のもの)と、入れたのを忘れていたハンカチだった。



「ええっと……こんなのしかないんですが」



 おそるおそるタブレットの袋を差し出すと、店主が破顔した。



「ああ、良いですね。いただいても?」

「あの、こんなので良いんですか?」

「十分ですよ。あ、あと、何か隠し芸みたいなの持ってます?」

「隠し芸!?」

「今夜集まった人には、それぞれ、得意分野の何かを披露してもらう事になっているんですよ」



 え、なにそれ。とティラミスは思った。



「何もなければ、途中で入る歌のコーラスとかやっていただけたら……」

「あ、それにします。カラオケは割と好きなんで」

「わしは駄菓子のショーをする」



 胸を張っておばばが言った。駄菓子のショー?



「相変わらず、駄菓子スキーですね、おばばさま……」

「楽しみにしておれ。ヒヒヒ」



 店主の言葉に、見かけに似合わないイヒヒ笑いをしてから、おばばは自分を呼んでいるグループの方に歩いて行った。

 友人らしい。全員が奇抜な角や羽をつけたり、真っ黒なローブをまとっている。



「コーラスとかもあるんですね」

「歌の得意な方が多いんですよ。古い歌ばかりなんですが……わかるかな。いざとなったら、手拍子だけしていてくれたら良いですから」

「はい、わかりました」

「ダンスを披露する人もいますよ。楽しんで下さいね」



 店主の言葉に何となくウキウキして、ティラミスは食事の置いてあるテーブルに向かった。


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