ハロー、コスプレイヤー。1
ティラミスとおばばが店に入ると、中には既に、大勢の客が集まっていた。
「盛況じゃのう」
店の中は、笑い声とおしゃべりで満ちていた。
「お店の中もなんだか……違う?」
ティラミスはまばたいた。店の中が、いつもより広くなっているような気がする。
壁は、あんなに向こう側にあっただろうか。
柱は、こんなに本数があっただろうか。
天井が高い。梁の様子も違う。天窓。あんな所に窓なんてあっただろうか。
テーブルの数も増えているような。いや、絶対増えている。
奥にあるのは石造りの暖炉。本物の火が燃えている。けど。あんなの、この店にあったっけ???
「うむ、見事に夏至じゃな!」
だからなぜ、それで片づけるんだ、おばばさま。とティラミスは思った。
「このお店にこんなに人がいるのを見たの、初めて」
疑問は尽きないが、おばばさまからは、まともな返事は期待できないらしい。とりあえず店の様子は置いておいて、ティラミスは、集まった客を興味深げに見やった。
みな、きらびやかな衣装をまとっている。
「コスプレイヤー発見。すごいなあ。中世風の衣装。あの羽、どうやってくっつけてるんだろ」
集まった客の服装はまちまちだったが、ファンタジー風の衣装や中世ヨーロッパ風の衣装を着ている者が多かった。
知識はあまりないのだが、たっぷりと布地を取り、刺繍の入った服装は、何だかすごい。
魔女や妖精の姿の者もいる。なかなか楽しい集まりのようだ。
「あ、ここもあのランタンなんだ」
ティラミスは、やわらかな光に目をやった。街灯と同じようなデザインのランタンが、机や棚、床に置いてある。その灯が、店内を照らしていた。
客もみな、ランタンの光に彩られて、何となく夢の中の人物のような印象になっている。
「いらっしゃい。二人で来たのですか」
店主が声をかけてきた。
「おお、そこで出会うてな。招待状は持っておったが、不安そうだったので、連れてきた」
「あー、はい。良く迷っちゃうので、不安で。おばばさま、ありがとうございました」
おばばが答え、ティラミスも付け加えてから、おばばに礼を言った。
「招待状を拝見しますね。はい、ありがとうございます。
あちらに、飲み物と料理がありますよ。セルフサービスですので、お好きにつまんで下さい」
店主の言葉に見やると、大きなテーブルの上に大皿がどん、と置かれ、料理が盛られており、飲み物を入れたピッチャーやグラスも置いてある。
「あ、あの、参加費とかいりますか?」
「あ、参加費はお金じゃないんですよ。それぞれのお客さんが持っている品を一つか二つ、いただいています」
「品を?」
「わしはこれを持ってきたよ」
おばばがそう言うと、きらきらした砂の入った瓶を取り出した。
「何の呪文です?」
店主が首をかしげる。おばばが答えた。
「ノミ除け、ゴキブリ除け、ハエ除け。ネズミ除けも入っとる」
「効くんですか?」
「失礼じゃな。一応、確かめたわ。それなりに効果はあったぞ」
店主がうなずいて、受け取っている。
「あたし、何か持ってたっけ……?」
ティラミスはバッグを引っかきまわした。その結果出てきたものは、コンビニで売っていたビタミンのタブレットが入った袋(二つほど食べた後のもの)と、入れたのを忘れていたハンカチだった。
「ええっと……こんなのしかないんですが」
おそるおそるタブレットの袋を差し出すと、店主が破顔した。
「ああ、良いですね。いただいても?」
「あの、こんなので良いんですか?」
「十分ですよ。あ、あと、何か隠し芸みたいなの持ってます?」
「隠し芸!?」
「今夜集まった人には、それぞれ、得意分野の何かを披露してもらう事になっているんですよ」
え、なにそれ。とティラミスは思った。
「何もなければ、途中で入る歌のコーラスとかやっていただけたら……」
「あ、それにします。カラオケは割と好きなんで」
「わしは駄菓子のショーをする」
胸を張っておばばが言った。駄菓子のショー?
「相変わらず、駄菓子スキーですね、おばばさま……」
「楽しみにしておれ。ヒヒヒ」
店主の言葉に、見かけに似合わないイヒヒ笑いをしてから、おばばは自分を呼んでいるグループの方に歩いて行った。
友人らしい。全員が奇抜な角や羽をつけたり、真っ黒なローブをまとっている。
「コーラスとかもあるんですね」
「歌の得意な方が多いんですよ。古い歌ばかりなんですが……わかるかな。いざとなったら、手拍子だけしていてくれたら良いですから」
「はい、わかりました」
「ダンスを披露する人もいますよ。楽しんで下さいね」
店主の言葉に何となくウキウキして、ティラミスは食事の置いてあるテーブルに向かった。