6.
* * *
店を出る。
通りを歩くと、ほどなくして静かな村に出た。夜明け前なので、薄暗い。土を固めた道と、家畜の糞尿の匂いが漂う。
見慣れた家々の並ぶ通りに確信する。城からやや離れたところにある、ネルの村だ。
ミストレイク領内であれば、どこにでもあるような小さな村だ。どこにでもある、わたしの世界の風景だ。
振り返るそこに、魔法小路はない。
不思議にきらめく灯の世界。魔法に満ちたあの場所は、消えていた。
いつも通りだ。
いつも通りの日常がまた、始まる。
短剣は失くしたが。マントも……いや、たぶん、どうにかして店主が届けてくれるだろう。
懐には、太陽のしずくのドロップ。心が暗闇に囚われた時には、これを飲めと店主に言われた。
候に献上しよう。
ティラミスの持ってきた、びたみん、とやらの薬と、傷薬。
それに、奥方たちへのお土産に、店主に頼んで見繕ってもらったクッキーやパイ。
けれど何より、候や奥方が喜ばれるのは……、あの一夜で出会った者たちとの、会話や出来事。あの場所の土産話だろう。
東の空が、明るくなり始めている。
ミストレイク城に向かい、わたしは歩き出した。
『その時のウィルフレッド』 Fin.