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一夜の魔法亭 1 ~ただ茶屋番外編~  作者: ゆずはらしの
その時のウィルフレッド。
22/25

4.



* * *



 気がつくと、ティラミスは寝ていた。うつらうつらして、頭がゆらゆらしているな、と思っていたら、本格的に眠ってしまったようだ。


 テーブルに突っ伏して、すうすうと寝息をたてている。


 やれやれ、と思っていると、妙な音が響いた。聞いたこともない、きんきんとした音だ。何かの音楽のようでもある。


 音は、意外と響いた。ざわめいていた店内が、一気に静かになる。



「おや……ケータイですね」



 店主がやって来て、音の出所を探すようにした。ケータイ、とは、じんとの会話でも出てきたが。何かの道具か?


 響いていた音は、止まった。店主が首をかしげ、ティラミスを見る。



「寝てしまいました?」

「ごらんの通りだ」



 そう言うと、「たぶん、ティラミスさんのケータイだと思いますが……」と店主がつぶやいた。


 また、音が響く。



「ティラミスさん? ティラミスさん……」



 店主が起こそうとしたが、むにゃむにゃと何か言いながら、幸せそうに寝ている。起きる気配はない。



「電子機器の音は、昔ながらの魔力とは相性が悪いんじゃがなあ」



 ランタンの光がゆらめいて点滅している。ケータイとやらの音に合わせて、ちかちかしている。



「でんし、きき?」

「からくりのようなものじゃ。その娘の世界では、それが魔法の代わりをしておるのよ」



 おばばの言葉に、そうか、とうなずいた。良くわからないが、別の世界の魔法らしい。



「困りましたね……」



 またもやケータイとやらが鳴り出し、店内の灯がちかちかと瞬いた。集った者たちが、ざわついている。



「出てみればどうじゃ?」

「ですが……個人情報に関わりますし……」



 個人の情報がどうしたのだ。


 おばばと店主の会話は良くわからなかったが、何か魔法の法則に関わることらしいので、とりあえず、店主の動向を見守った。


 音が途切れ、また鳴り出す。店主はためらっていたが、ついにティラミスの持っていた小さな鞄に手を入れ、銀色に光る小さな道具を取り出した。


 薄っぺらい金属で、色とりどりの小さな細工物がぶら下がっている。何に使うものか良くわからないが、精巧な細工物であることは確かだった。


 あの妙な音は、それからしている。



「すみません、みなさん。少し静かにしていて下さい」



 そう言うと、店主は店の隅に移動した。その場にいる者がみな、静かになる。



「もしもし?」



 店主はそれを、自分の耳にあてた。そうして、そこにいない者と会話をしているかのように、話しだす。



「いえ、わたしは……『ただの茶屋』という店の者で。紅と言います。

 いえ、ティラミスさんは……寝ておられまして。うちの店で今夜、貸し切りのパーティーがありまして、ティラミスさんはそれに参加して……ええ」



 何をしているのかと首をひねっていると、「ありゃ、遠くにいる人間と会話ができる道具じゃよ」とおばばが言った。



「それはすごい。あんなに小さな物なのに」

「そうじゃな。わしらも水鏡で会話はできるが、あれはあれで便利じゃ」

「この娘に魔力はないと思っていたが……魔法使いの類だったのか?」



 そう言うと、おばばが首を振った。



「あれは、魔力がなくとも動くのよ。そういうからくりになっておる」



 わたしは、ほう、と驚きの声を漏らした。



「魔法使いでなくとも使える道具なのか」

「電気がなければ、ただの金属のカタマリじゃがな」



 それから簡単な説明をされたが、良くわからなかった。何やら、この娘の世界では、雷の力を閉じ込める技術があり、それを使って色々な事をしているらしい。


 魔法使いでなくとも使える魔法の道具、という発想にはしかし、驚かされる。



「それで、店主どのは、誰と話しておられるのか」

「ああ……おそらく、この娘の家族じゃろ」

「家族?」

「この娘の世界では、あの道具は、多くの者が持ち歩くものなのじゃよ。若い娘が夜道を一人で歩くと、危ないじゃろ? 

 じゃから、あれを持って歩く。何かあった時には、すぐ誰かに連絡ができるようにな」



 わたしは、目を見開いた。それは素晴らしい。



「なるほど。そのように考えて道具を作る世界なのか……確かに、か弱い女性が生活するには、色々とむずかしい世の中であるからな」

「弱い者でも生きやすい、そういう世界を目指しているらしい。とりあえずはな。悪さをするものは変わらずおるし、誰もが賢いわけでもないが」

「それでも、そういう世界があると言うのは……、なかなかに胸を熱くするぞ」



 魔法や力が、強き者のためにあるのではなく。弱き者のためにあり、使われる世界。


 ミストレイク候に伝えれば、どのような顔をされるだろう。



「ええ、……はい。いえ、女の方もおられますよ。ティラミスさんと仲の良い女性もここにおいでですし」



 店主が言う声が聞こえる。



「仲の良い……ってわしのことか?」



 おばばが首をかしげる。



「話しているのは父親かな」

「さて。母御かもしれぬな。夜遅くなっても家に戻らんとあれば、そりゃ心配するじゃろ」



 それはそうか、と思いうなずく。その辺りは、どの世界でも同じようだ。


 ティラミスの方を見れば、幸せそうに眠っている。家族に心配をかけけていると言うのに。



「おい。おい、起きろ」



 何となく苛立って、肩を揺する。


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