招待状は、突然に。2
ほどなくしてティラミスは、『ただの茶屋』に到着した。店の中からは、光が漏れている。
「あれ?」
そこで首をかしげる。どうも、外観が違っているような気がする。
「どうした」
「え、お店がいつもと違う……気がして」
「そうじゃろうな。夏至じゃし」
夏至と何の関係が。
「夜に見ているからかなあ?」
お店に来るの、いつもは朝だし。とティラミスは思った。それにしても、
「あの、おばばさま。なんか、お店が大きくなってません?」
「夏至じゃからな」
「窓の数が増えてるような」
「夏至じゃしな」
「屋根、あんなに高い所にありました?」
「うむ。正しく夏至じゃ」
だから、夏至と何の関係が。
「入るぞ」
「あ、はい」
首をひねっていたティラミスだったが、おばばに言われ、慌ててステップを昇った。
階段には一段ごとに小さなランタンが置かれており、足元が暗くならないよう配慮されていた。
(あ、これ、さっきの街灯と同じだ)
ゆらゆらと揺れる、やわらかな光。
「店主さんも、エコですねえ」
「なんじゃ? エコ?」
思わずそう言うと、先に立っていたおばばが振り向いた。ティラミスは言った。
「こんなにLEDのランタン集めるの、大変だったんじゃないですか? まだそんなに普及していないし」
おばばは沈黙した後ティラミスを見つめると、「えるいーでぃー?」とつぶやいた。
「前に見たことあるんですよ、こういうの。LED灯って言うんでしょ? 蛍光灯より柔らかくて、熱も少なくて済むから、エコなんですよね」
「明る過ぎる灯は、夜を傷つけるからの。それは、今夜のために客たちが集めたものじゃ」
「そうなんですか! みなさん、エコロジカルな暮らしを心がけているんですね!」
「エコロジカルと言えばエコロジカルじゃろうのう。そりゃ、大気中の力を集めたものじゃから」
「大気中? あ、太陽電池なんですね。自然な力を集めた感じですよね!」
「ああ、まあ、自然な力は集めとるわなあ」
おばばは片手でばりばり、と頭を掻いた。
「まあ、良いわ。ほれ、招待状は。中に入るのに必要じゃろ」
「あ、そうですね。ええっと」
ティラミスは、カードを取り出した。
「これ、受付の人に見せれば良いん……」
そこで動きが止まる。
(あれ?)
文面が、違っている気がする。
『夏至のお祝い 招待状 『一夜の魔法亭』店主 紅』
「この店って名前、『一夜の魔法亭』、でした?」
おばばは、ん? という顔をしてから、ああ、という顔になってうなずいた。
「店だって、たまには名前ぐらい変えたいじゃろ」
「そういうものですか?」
「夏至じゃからな」
だから、なぜすべてが夏至で片づけられるんだ。とティラミスは思った。