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一夜の魔法亭 1 ~ただ茶屋番外編~  作者: ゆずはらしの
夏至の夜の不思議な時間。
15/25

やだちょっとカワイイ。~ワンちゃんと炭酸。3

「これは……」

「日のしずくじゃ。集めたのじゃろ」



 おばばが言い、ティラミスに目をやった。



「そんなものかけられたら、そりゃ、暗い力を借りているものは近寄れはせんわなあ……」

「ティラミスさんもどうです?」



 店主にすすめられ、ティラミスはスポーツドリンクを手に取った。グラスに注ぎ、飲んでみる。



「あら? へえ~……なんだか、力が出るみたい、な?」



 飲むと、なぜか、体の中から熱と力がふうっ、と沸きだした気がした。

 その熱はすぐに過ぎたが、ぽっ、と温かくなった熱は、消えずに体を支えている。そんな気がした。



「重曹って、お掃除に使うぐらいしか知らなかった」

「掃除に使う重曹は、食べられないものですが。重曹には、食べられるグレードのものもあります。

 それを使って料理をしたり。こんな風にスポーツドリンクを作ったりできるんですよ」

「そうなんだー……」



 うなずいたティラミスだったが、ふと犬を見ると、なぜか犬は震えていた。



「あら? ルーちゃん?」



 不思議に思って犬をのぞきこむと、飛び上がって驚かれた。なぜか必死な様子で、ティラミスから逃れようとする。



「ルーちゃん、どうしたの?」



 毛を逆立て、足を踏ん張って体を離そうとする犬に、ティラミスは手を伸ばした。その手をつかまれる。



「やめておけ」



 ウィルフレッドが言った。



「どうして?」

「見てわからないか。あれは、恐怖を覚えている」

「恐怖? ルーちゃん……」



 困惑したティラミスがもう一度、犬の方を見ると、店主が綱を引いて犬を立たせていた。



「少しばかり、刺激が強過ぎたようです。静かな所に連れて行きますね」

「え、あ、そうなの? なにか怖いことあったの?」

「この子には、この世の中で、怖いものがたくさんあるのですよ。

 大丈夫。静かなところで寝かせておけば、落ち着きます」



 店主が苦笑気味に言い、犬に目をやった。



「彼女は選んだ。わたしたちは躾けをして見せるつもりだったが。

 しかし彼女の選択がこの場合、優先される。恩義を受けたこと、忘れるな、ルーザード」



 店主の言葉に、犬がうなり声を上げた。けれどすぐに、店主とティラミスから顔を逸らす。



「連れて行きますね」



 そう言うと、店主はルーザードを連れてその場を去った。

 その後ろ姿を見ながらティラミスは、



「紅さんも、犬が好きなのねえ……」



 と、つぶやいた。

 ウィルフレッドが何とも言えない顔をし、おばばがまた笑い出した。

 そこでタイミングをはかったように、バグパイプの音が、ぷおー、ぷおー、と響く。演奏が始まったのだ。のんびりした音楽が店の中に流れる。



「笑いすぎて腹が減った」



 そう言うと、おばばは猛然とした勢いで食べ始めた。

 ナンに肉や野菜をはさんでぱくつき、運ばれてきたスープをすする。美味じゃ、とか何とか言いながら、次々と平らげてゆく。



「この音楽の次に、おまえの歌があるのだな」



 その食べっぷりに思わず見入っていると、ウィルフレッドがそう言った。



「そうだった……あたし、ちゃんとできるかな?」



 言われて思い出し、ティラミスはあたふたとし始めた。


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