やだちょっとカワイイ。~ワンちゃんと炭酸。3
「これは……」
「日のしずくじゃ。集めたのじゃろ」
おばばが言い、ティラミスに目をやった。
「そんなものかけられたら、そりゃ、暗い力を借りているものは近寄れはせんわなあ……」
「ティラミスさんもどうです?」
店主にすすめられ、ティラミスはスポーツドリンクを手に取った。グラスに注ぎ、飲んでみる。
「あら? へえ~……なんだか、力が出るみたい、な?」
飲むと、なぜか、体の中から熱と力がふうっ、と沸きだした気がした。
その熱はすぐに過ぎたが、ぽっ、と温かくなった熱は、消えずに体を支えている。そんな気がした。
「重曹って、お掃除に使うぐらいしか知らなかった」
「掃除に使う重曹は、食べられないものですが。重曹には、食べられるグレードのものもあります。
それを使って料理をしたり。こんな風にスポーツドリンクを作ったりできるんですよ」
「そうなんだー……」
うなずいたティラミスだったが、ふと犬を見ると、なぜか犬は震えていた。
「あら? ルーちゃん?」
不思議に思って犬をのぞきこむと、飛び上がって驚かれた。なぜか必死な様子で、ティラミスから逃れようとする。
「ルーちゃん、どうしたの?」
毛を逆立て、足を踏ん張って体を離そうとする犬に、ティラミスは手を伸ばした。その手をつかまれる。
「やめておけ」
ウィルフレッドが言った。
「どうして?」
「見てわからないか。あれは、恐怖を覚えている」
「恐怖? ルーちゃん……」
困惑したティラミスがもう一度、犬の方を見ると、店主が綱を引いて犬を立たせていた。
「少しばかり、刺激が強過ぎたようです。静かな所に連れて行きますね」
「え、あ、そうなの? なにか怖いことあったの?」
「この子には、この世の中で、怖いものがたくさんあるのですよ。
大丈夫。静かなところで寝かせておけば、落ち着きます」
店主が苦笑気味に言い、犬に目をやった。
「彼女は選んだ。わたしたちは躾けをして見せるつもりだったが。
しかし彼女の選択がこの場合、優先される。恩義を受けたこと、忘れるな、ルーザード」
店主の言葉に、犬がうなり声を上げた。けれどすぐに、店主とティラミスから顔を逸らす。
「連れて行きますね」
そう言うと、店主はルーザードを連れてその場を去った。
その後ろ姿を見ながらティラミスは、
「紅さんも、犬が好きなのねえ……」
と、つぶやいた。
ウィルフレッドが何とも言えない顔をし、おばばがまた笑い出した。
そこでタイミングをはかったように、バグパイプの音が、ぷおー、ぷおー、と響く。演奏が始まったのだ。のんびりした音楽が店の中に流れる。
「笑いすぎて腹が減った」
そう言うと、おばばは猛然とした勢いで食べ始めた。
ナンに肉や野菜をはさんでぱくつき、運ばれてきたスープをすする。美味じゃ、とか何とか言いながら、次々と平らげてゆく。
「この音楽の次に、おまえの歌があるのだな」
その食べっぷりに思わず見入っていると、ウィルフレッドがそう言った。
「そうだった……あたし、ちゃんとできるかな?」
言われて思い出し、ティラミスはあたふたとし始めた。