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一夜の魔法亭 1 ~ただ茶屋番外編~  作者: ゆずはらしの
夏至の夜の不思議な時間。
12/25

あれ? 不穏? ~夏至の夜と炭酸。2



* * *



「なんともまあ」



 おばばは先ほどから動かず、同じ場所にいた。

 ウィルフレッドはもう妙な顔はしていなかったが、戻ってきたティラミスが濡れているのを見て、眉をしかめた。



「なにがあった」



 事情を話すと、二人して、何ともいえない表情になった。



「変質者は逃げたみたいだけど、紅さんが、おばばさまに怪我を見てもらえって」

「ああ、まあ、変質者ね。その犬はそれで、どうなったと?」

「さあ? ぎゃんって悲鳴が聞こえたけど……」

「自業自得じゃな」



 ぼそりと言うと、おばばは、ティラミスの全身に目をやった。ウィルフレッドはおばばに問いかけた。



「何かつけられているか?」

「いや、大丈夫じゃ。紅どのの対応が良かったのじゃろ。しかし、何を投げつけたんじゃ、あの御仁は」



 おばばは眉を寄せてティラミスの髪をひとふさ、指にからめた。濡れているそれを見つめ、ふーむ、とうなる。



「わしの渡した魔よけとは違うぞい」

「店主どのの独自の呪文か?」

「いや、これは……」



 二人でぼそぼそと話し合う。内容がよくわからない。



「あの変質者、業者なの? ルーザードって紅さんは呼んでたけど」

「ルーザード……ああ。あれか」



 ウィルフレッドが得心したという顔をした。



「知ってるの?」

「知ってるもなにも……さっき、おまえに話しかけていただろう。魔法使いの男だ」



 ティラミスの脳裏に、ヘビのような動きをする、やたらと青白い顔の男の姿が浮かんだ。



「やだ、あれってやっぱり業者なの? 魔法使い気取りで痴漢するなんて、サイテー。

 オタクのコスプレイヤーでしかも業者って、どうしようもなくない? 痴漢撃退法とか習っておけば良かった!」



 憤慨するティラミスに、おばばとウィルフレッドは顔を見合せた。

 それからなぜか、ウィルフレッドはため息をつき、おばばは生ぬるい笑みを浮かべた。



「なんですか?」

「いや、面白いのう、おまえさん。これほど見当がずれておるのに、本質はしっかり掴んでいる人間など、滅多におらんわ」

「はあ?」

「まあ、痴漢撃退については、相手が逆上することもあるでな。しっかり学んでおるならともかく、付け焼き刃は危ないぞ。

 そういう時には、ここにいる男のような、叩いても蹴飛ばしても、壊れそうにない男を利用するが良い」

「俺に子守をさせ続けるつもりか」

「騎士なんじゃろ、おまえさん。か弱い女性を守るのもつとめじゃろうが」



 けけけ、と笑っておばばはウィルフレッドの肩をぱしん、と叩いた。

 ウィルフレッドはいやそうな顔をしたが、ティラミスの目線に気づいて息をついた。



「店主どのから頼まれているからな。ここにいる間は、面倒を見てやる」

「その言い方って……」



 むっとしてティラミスが言うと、ウィルフレッドは続けた。



「ルーザードのような輩は、いくらでもいる。おまえでは区別がつかんだろう。良いから、俺の側にいろ」

「ひゅーひゅー」



 おばばがなぜか、にやにやしながらそう言った。口笛ではない。思い切り言葉で言う「ひゅーひゅー」である。



「若いものは、良いのう」

「そういう話ではないだろう」

「ひひひ。そういう話じゃわな。今夜は夏至じゃしな」



 だからなぜそうも、要所要所で『夏至』の一言を持ち出すんだ。と、ティラミスは思った。


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