魔法使いと、●るねるねるね。4
* * *
その後、ねりねりされた駄菓子は、一口ずつ配られた。
「……」
ウィルフレッドは、渡された物体を眺めたまま、動かない。
「あの、……たぶん、そんなに変な食べ物じゃないから」
ティラミスがなだめるように言った。じんは厨房に戻ってしまい、ここにはいなかった。
「本当に食えるのか。これは」
「子どもが食べるものだから」
「口にした途端、体が虹色になったり、トサカが生えたりせんだろうな」
なぜ、トサカ。
「なんじゃ、失礼な若造じゃのう。わしがねりねりした駄菓子じゃぞ。
そんなけったいな効果をつけるわけがなかろう」
そこで、声をかけた者がいた。オレンジ色のスーツ。
「おばばさま」
「おう、外の。わしの駄菓子ショーはどうじゃった? なかなかであったろ?」
「えーと、……熱気がこもってて、面白かったです」
この流れで怪しかったとは言えず、ティラミスはそう言った。
実際、面白かった。大喜びで盛り上がっている人を見ていると、笑いだしたくなるような面白さを、確かに感じたのだ。
「そうじゃろう。楽しく過ごすために持ってきたからのう」
かかか、と笑っておばばは、ウィルフレッドが持ったままの駄菓子をひょい、と取り上げた。
それから男の顎をぐっ、とつかむと口を開けさせ、中身をぽいと放り込むと、無理やりしめた。
「! ! !」
ぎょっとした男がふごふご、うーうーとうめいているが、気にした様子はなく、あいた方の手でばこっ、と頭をなぐる。
ごくり。
はずみでウィルフレッドの喉が動いた。
「あ」
飲み込んだらしい。
「ひひひ。うまかろう。わしが手ずからねりねりしたのじゃ!」
得意気に言って手を離したおばばに、ウィルフレッドは口元を押さえ、恨めしげな顔で体を丸くした。
「おばばさま、そんな、いきなり飲み込ませるなんて。喉につめたらどうするんですか!」
「おー、そうじゃの。危なかったかの? ほれほれ。飲み物ならあるぞ」
そう言って、おばばはカクテルのグラスを差し出した。しかしウィルフレッドは恨めしげな顔をするばかりで、受け取ろうとしない。
「サー・ウィル、大丈夫……、お酒じゃだめよ。あたし、水もらってくる」
ティラミスはそう言うと立ち上がり、厨房に向かって走った。
後ろでおばばとウィルフレッドが何か言う声が聞こえたが、とにかく水をもらおうという事しか、ティラミスの頭にはなかった。