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一夜の魔法亭 1 ~ただ茶屋番外編~  作者: ゆずはらしの
夏至の夜の不思議な時間。
1/25

招待状は、突然に。1

まだ本編に出ていない人も出てきます。

2011年の夏至記念作品。

「今夜は、夏至のお祝いをするんですよ」



 その日、ティラミスが店を訪れると、店主がそう言った。



「夏至? お祝いって?」

「昼が一番長く、夜が短い日。大気に魔法の力が混じる日でもあります。何かしておきたいと思う人は、わりといるんですよ」



 そうだっけ? とティラミスは思った。



「クリスマスとか、ハロウィンならわかるけど……」

「この辺りの人は、夏至も祝うんです。たぶん、夜の間中、騒がしいですよ。

 明日はだから、店が開けられないと思います。すみません」

「えー、それはかまいませんけど……どんな事するんですか? ちょっとのぞいてみたいなあ」

「大したことはしませんよ。アルコールの入った飲み物や、腹にたまるような食べ物を用意しておくだけですから。

 あとは、やってくるお客が、歌ったり踊ったりしていますね」

「なんだか楽しそう。何時からですか?」

「七時ぐらいかな? 日が沈んだら、始まります」



 よし。今日は、夜にもこの店に寄ってみよう。と、ティラミスは思った。



* * *



 夜。仕事を終えてから軽く食事をし、ティラミスは『ただの茶屋』に向かった。

 この店はわかりにくい場所にあるらしく、ある時は、どうしてもたどり着けないのだが、

 どうかすると、なぜ気がつかなかったのだろうと思うぐらい、あっさりと見つかったりする。

 地図を書いてみても、そのとおりの場所で店が見つからない。自分には方向音痴の気があるので、そのせいだろうか、とも思う。

 今夜も行こうと決めたものの、たどりつけくるかどうか、不安だった。



「招待状をあげますよ」



 ティラミスが夏至のお祝いを見たいと言うと、店主はそう言って、手作りらしいカードをくれた。

 スタンプを周囲に押して、飾りをつけたカードには、



『夏至のお祝い 招待状  『ただの茶屋』店主 紅』



 とのみ書かれていた。



「ちょっとカワイイ。せっかくこういうカードもらったんだし、たどり着かないとなあ」



 カードを取り出して眺めていると、ふと、周囲が暗くなった気がした。




「あれ?」



 見回すと、道がなんだか暗い。窓から漏れる灯の色が、蛍光灯の光と違っている気がする。



「あれ? れ?」



 街灯の光も、何だかゆらゆらとして……。



「あ、太陽電池のランタンだ!」



 街灯は、クラシカルなデザインのものだった。装飾のあるランタンが黒い柱にぶら下がり、ゆらゆらと光を放っている。

 似たようなものを、見たことがあった。太陽電池のランタン。

 庭に置くタイプのもので、どこかへ出かけた時、庭に置いてあった。光にはゆらゆら揺れる効果がつけてあって、ロウソクの灯のようだった。

 LED灯なので、蛍光灯の灯よりちょっと暗いが、風情があった。この辺りの街灯は、それを採用しているのだろうか?



「エコだ~……」



 すごいすごいと喜んでから、ティラミスは改めて、カードを眺めた。それから、ふと、前を見る。



「おばばさま?」



 スタイルの良いショートカットの若い女性が、ヒールの音をかつかつと響かせて歩いている。呼びかけると、立ち止まってこちらを見た。



「おや。外のお嬢さんではないか」

「外の? 毎回言われるけど、良くわからないんですが、それ」

「外は外じゃ。どうした。こんな時刻に」

「あ、えと、お店に行こうと思って……でもあたし、迷いやすいんですよ。ちょっと自信なくて」



 おばばは、ティラミスの方に歩いてきた。今夜は、オレンジ色のアンサンブルのスーツを着ている。シャーベットオレンジのワンピースに、ワンピースより一段強い色のボレロ風ジャケット。襟には大きめの花のコサージュ。華やかでいて、すっきりとしてもいる。

 自分が着ている通勤用の、無難なモスグリーンのスーツがちょっと、恥ずかしくなった。



「招待状を持っておるのか。ならば、道は開いておるよ」

「えと? あの、良かったら一緒に行ってもらえませんか?」

「かまわぬよ。わしも行く予定じゃ。ついておいで」



 そう言うと、おばばはにっ、と笑って先に立ち、歩き出した。

 相変わらず、言い回しが古めかしい人だなあ、と思いつつ、ティラミスはあとに従った。




 二人が立ち去った後、街灯の灯がゆらり、と揺れた。


 ガラスで囲われたランタンの中には、電球は入っておらず、やわらかな色合いの丸い光の塊が、ただゆらゆらと揺れていた。


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