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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第一章 ちいさな人と遭遇
8/40

しばらく話をした後、八時半をまわった辺りで俺達はコーヒーショップを後にした。


電車は同じ方面だから、一緒に乗り込んだ。

満員まではいかない車内のドアの前に藤村さんを立たせて、目の前に俺達が立つ。

藤村さんは少し気圧された様に瞬きをすると、俺達を見上げた。


「お二人とも、背、高いですね」


……声、聞きづらい……


荷棚に手をかけて、上体を少し屈める。

電車の音もあるけど、この身長差、ちょっと声が聞き取りにくい。

葛西と目線が合うくらいに身体を屈めると、藤村さんの羨ましいです、という言葉が聞こえてきた。

「まぁ、電車とかだと重宝するけど。でもどうせここまででかくなったなら、もう少し欲しかったなぁ」

「え、それ以上?」

驚いたように目を見開く彼女に、うん、と頷く。

「高校の時バレーやってたんだけど、俺より高い奴がいてさ。背の高さだけはあまり負けたこと無かったから、ちょっと悔しかったんだよね」

高校生で百九十センチ越えってどうよ、とかそんな事思ってた。

「百八十五センチって、バレーの世界だと小さい方なのか? 俺らからしたら、充分大きいけど」

葛西は文化部だったらしく、あまり体育会系の方はよく分からないらしい。

いや、俺も文化系の方まったくわかんないけどね。

高校ん時、いつ引退するんだろうとか思ってた。

俺達みたいに、大会が区切りと言うわけでもないだろうし。



そんなことを考えながら、首を振る。

「いや、高校ならでかい方。それより上に行くなら、話は違うけど」

全日本とかね。

俺は、そこまでいける程上手くなかったから、別に身長足りなくて悩んでたとかではない。

単純に、悔しかっただけ。



「葛西さんは、高校の時に何に入ってらっしゃったんですか?」

俺を見上げていた藤村さんが、葛西に視線を移した。

それを受けて、葛西は“科学部”と答える。

「科学部? サイエンスショーみたいなことするわけ?」

なんだその根っからの理系部活は。

俺の高校、そんなものなかったぞ?

葛西は苦笑しつつ、両腕を前で組んだ。

「それやってた班もあったけど、俺はロボットとコンピュータ。根っからの工学系なんだよね」

理系じゃなくて、工学系なのね。

違いが分からん……

首を捻っていると、藤村さんは目をキラキラさせて葛西を見上げた。

「面白そうですね、どんな事をされるんですか?」


面白そう……?

……ここにも、根っからの工学系っぽい人発見。


「ん? 例えば……」



きっと二人にとってはなんでもない話なんだろう。俺には、まったく分からないが。

葛西はソフトのプログラミングの話をしていて、それに藤村さんが質問を投げかける。

会社のある駅から藤村さんが降りる駅まで、たったの三つ。

そのまま葛西と藤村さんが話し続けて、あっという間に駅に到着。


「それでは、今日はお時間を取っていただき本当にありがとうございました」


藤村さんは敬語でそう俺達に告げて深々と頭を下げると、開いたドアからホームへと降りる。

「こっちこそ、どーも」

「帰り気をつけて」

葛西と各々声を掛けると彼女は頭を下げて、俺達の乗った電車が動き出した後もその場で見送っていた。





「礼儀正しい子だねぇ」

藤村さんの姿が見えなくなると、葛西は窓に向けていた身体を俺の方に向ける。

「ホントだな。しっかし、お前らの話、半分も分かんなかったよ」

俺も藤村さんの声を拾うためにかがめていた上体を伸ばして、腰に手を当てる。

ちょっと、腰疲れた。


葛西は俺の言葉に申し訳なさそうに、後頭部に手をやる。

「悪かったなぁ、そっち系の話になるとな。つい……」

「いや、藤村さんも楽しそうだったから別にいいけど。ちょっとした疎外感だっただけで?」

悲しそうに眉尻を下げると、少し慌てた葛西はすぐに俺の意図に気がついたようでむすりと口を曲げた。

「あーあー、分かったよ。来週の社食、おごりゃいいんだろ? お前は、メシでなんでも許せるもんな」

「俺にとって、メシは重大且つ最優先事項なのだよ。葛西君」

うちは一人だと言うのに、エンゲル係数がハンパないのだよ、葛西君!


あっという間にいたって普通の表情に戻すと、葛西の方をぽんぽんと宥めるように叩く。


「いいじゃないか、年下の女性と話せたんだから。な? 当事者の俺を置いてけぼりにして、二人で盛り上がっていた葛西君」

「分かったよ、分かったってば。あー、こっちだって金ねぇのに」


隣でぶつぶつ文句を言う葛西に、そういえば今日関係ないのに付き合ってもらったんだっけ、と思い出したけれど、それはそれと気付かない振りをした。






アパートに帰宅した後、節約の為に夕飯を自炊しながら藤村さんのことを思い出して顔がにやけてしまったのは、きっと彼女が可愛すぎるからに違いない。

決して俺が変態なわけではない。


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