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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第一章 ちいさな人と遭遇
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バイヤーである俺の取扱商品は、……笑うなよ?

いいか、絶対に笑うなよ?


メインは。


菓子、だ!


あと、ステーショナリー!



……、六割女性向け。

市場調査、競合店調査、頑張ってます!!



うちの会社はいろいろな種類の店舗を展開していて、俺が担当しているのはその一つ。

小規模な雑貨店。

その代わり全国に百店舗以上展開しているから、例えば菓子を一種類取り扱うだけでも、一ボール二十万くらいはする。

当たり前だけど一店舗に数種類は置くわけで。

その上、ステーショナリーの担当も俺で。

と言うことで、俺の肩には“うん億”という予算がつまれていたりする。

それだけ信用されている、期待されていると思えば嬉しいけれど。

まぁ、デメリットももちろんあって。


……何がいいたいのかと言うと。


報告書を含めた提出資料が、半端ないのだ。

故に、週に一日は会社に詰めて報告書を作成する。

その際、いろいろ計算やらも含んでくるから結構大変なわけで……




「俺、帰るわ」

「は? 何、もう報告書まとまった訳?」


壁の時計は定時を少し過ぎていて、俺がやるべきものは終了した。

もう、かなり頑張った。

俺的、今年で一番の頑張りだ!

まだ三月だけど。

とりあえず全て報告書はあげたから。

だから、もう帰っていいはずなんだけど。



「終わったよ」


溜息とともに伝えると、吊り上がった目が俺を睨み上げる。

「あんた、同僚が苦しんでるって言うのに見捨てて帰るわけ? 最低、男として最低」

そう言いきると、すぐに視線を手元に落とす。

「つっても、俺がいたって何の役にも立たないよ。自分でやらなきゃ、覚えないだろ?」

ちらちらと葛西が何か言いたそうに情報管理課のブースから俺を見ているのに気付いて、少し手を挙げて応えておく。


もう少し待ってくれ、と。


俺の用事に葛西をつき合わせるのに待たせるとは、流石の俺も申し訳なくなってくる。

情報処理課は夜勤もあるから、今日みたいに定時で上がれるのは珍しく貴重なのだ。

もう一度溜息をついて、隣の席を見る。

焦りのオーラが燃え上がっていそうな雰囲気で、パソコンを懸命に操作している女性社員。

久坂 真由。

俺や葛西と同期で、俺と同じ事業部のバイヤー。

去年の十一月に、期間外の人事異動でここに来た。

その前までは秘書課にいて、そこからバイヤーとは珍しい異動だと一時期噂になったくらい規格外の異動だった。


本人は頑張っていて、まぁいいんだけど。


「これ、どーやるわけ?」

「んあ?」

腕を引っ張られて、パソコンを覗き込む。

原価計算?

既に数式はエクセルに入ってるし、数字放り込むだけなのに。

資料を見ながら細かく教えると、分かったんだか分かってないんだか首を捻りながら続きをはじめる。

俺は身体を起こして自分の机に浅く腰をかけると、息を吐き出した。



久坂が頑張ってるのは認めるけど、数字にからきし弱い。

しかも、説明してもあまり理解できてない。

で、俺に聞く。

故に、報告書が終わるまで俺がいないと困る。


そんな三段論法でここ数ヶ月来ているわけで。

つっか教えるのは別にいいけど、ずっとこれじゃ覚えられないわけで。

久坂の為にならないのは、明白。


「……久坂」

「何」

焦っているからか、俺の方も見ずに声が返ってくる。

「お前、仕事ちゃんとやりたいんだよな?」

「当たり前」

「なら、自分で最後までやれよ。いつまでも俺に聞いてたら、先にすすまねぇぞ」

「……」

やっと、顔を上げた。

顰められた眉に、言い方きつかったかなと思うけどここは仕方ない。

既に五ヶ月ここでやってるんだから、時間かかっても分からなくても自分で仕上げないと。

残業は気の毒だけど、この階は情報処理課が二十四時間いるから危なくないし。

「……何よ、その言い方」

「お前の為に言ってんだろ?」

じっと見上げてくる目が、きつく細められていく。

睨み上げてくるその目に、思わず溜息をついた。

「俺、帰るからな」

「……帰れば」

それだけ言うと、久坂はパソコンに視線を戻した。

カタカタとキーボードを叩く音が、さっきより大きく聞こえてくる。


……怒ってんなぁ


内心そう呟くと、ため息だけ口にして俺はそこを後にした。




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