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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第一章 ちいさな人と遭遇
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「あれ? この会社名、見たことあるな……」


社食で昼飯を食いながら、葛西が俺から受け取った名刺を指先で目の高さに持ち上げた。

葛西は情報管理課に所属しているため、同じ階にはいるけれどあまり話すことはない。

大体社内に掛かりきりの葛西と、外に出ることの多い俺が昼を一緒にとることは週に一回あるかないか。

その時は普段は来ない社食に来る。

社食……、それは大食らいを自称する俺には足りない食事場。

故に、俺の前にはラーメンと定食。

二人分。

これでもちょっと不足気味だが、財布の中身を考えるとぎりぎりだ。


……身体がでかいから、エネルギーがね

ははん、言い訳だよ




「おい、違う世界に妄想トリップしてるそこの痛い奴、とりあえず俺の話聞け。一人でしゃべってたら、俺が痛い男になるだろ」

その声に顔を上げたら、呆れ顔の葛西と目が合った。

「人に名刺ふっといて、自分の世界に入ってんじゃねぇよ」

「そういう事も、あるってことだ」

あるか阿呆、と葛西は持っていた名刺を俺の方に滑らせた。

「それ、うちのwebデザインを頼んでる会社だわ」

「え? 頼んでるって、あれってうちでやってんじゃないの?」

Webって、葛西の所属してる情報管理課が担当してるはず。

今ほどネットが普及していなかった頃からあるから硬い名前だけど、今風に言うならシステム管理とかネットオペレーティングというか。

いや、俺はパソコン詳しくないからよくわかんないけど。

とくに葛西はシステムの管理と併せて自社HPの管理を受け持っているから、デザインもこいつがやってると思ってた。


葛西はうどんをすすりながら、いや? と頭を振る。


「管理とか構築とかそういうのは俺だってやれるけど、デザイン能力はない。下請けに出してんだそっち関係は」

「へぇ、初めて聞いた」

だろうな、と葛西は呟く。

「情報管理と商品部の間で、行き来する情報はほとんど無いからな。最初は間に違う会社入ってたんだけど、今は直接取引してる」

「へぇ? すげぇな。俺、この世代であれだけど、プログラミングとかデザインとかまったくわかんねぇ」

大学の時に部活のHPを作ってみようとか思い立ったけど、ソフト使っても無理だった。


「いや、得手不得手だろ? 俺、お前みたいな交渉事は出来ねぇし」

「そんなもんかねぇ」

「そんなもんだろ」


でも、女性なのにパソコンに詳しいとか凄いと思うんだけど。

この考えって、男尊女卑になるの?

素直に、凄いと思うだけなんだけどさ。



俺は机に置いてあった名刺を手に取ると、印刷された字を見る。


Webデザイナー

藤村 遥



デザイン会社だけあってなのか、ただ単に彼女の趣味なのか字だけじゃなく落ち着いたトーンでデザインされた名刺。

俺の名刺なんて、字、だけだな。


とりあえずそれを名刺入れにしまいこむと、そうだ……と、うどんを食べ終わった葛西に目を向けた。


「お前、今日の約束付き合えよ。何時上がり?」

「え、俺? ってまぁ、藤村さんだっけ? 確かに一対一じゃ緊張させちゃうねぇ」

「てーことで頼むわ。時間決めてないけど、定時までには仕事切り上げろよ? 夜遅くなったら相手に悪いだろ」

「お優しい事で」


皮肉げに笑う葛西を無視して、残りの昼飯を一気に食い終える。

お茶も流れで一気に飲むと、席を立った。


「おやぁ? もしかして、一目惚れとか?」

思いついたように俺を見上げる葛西を、両手がトレーで塞がっている俺は足蹴で答えた。




「俺はそんなに乙女じゃない」




いや、思考は乙女だろ。と葛西が頭の中で思っていたことは内緒。






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