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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第三章 目指すのは
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高橋 大樹 (二十六歳)

とある会社の御曹司。

口癖は「俺にできないことはない」

仕事は男に任せておけばいい。

結婚したら家庭に入るべし。


プライドは高いけど、それでいて仕事の出来ない「ウザイ男」





「高橋大樹? まぁた、懐かしい名前が出てくるわねぇ」

やっと落ち着いてくれた祥子に珈琲を淹れさせて、一息ついた。

「そいつが、原因の男なのか? それで、彼女がそいつを知っていると?」

珈琲の入ったマグカップをローテーブルに戻すと、驚いたように葛西が俺を見る。

「ついでに俺もね、知ってる」

そう言いながら、祥子に話を促す。

「また何かしたわけ? あの男」

「そう、またしちゃったわけ。しかも、俺の同期。ミス擦り付蹴られた結果、ついていた職から出されて俺と同じ部署に来た」

「うわ、最悪。その同期って女の人?」

「そう、女の人」

俺の答えで自分の想像に間違いがないことを悟った祥子が、苦虫を噛み潰したような表情で息を吐き出した。


「まったく変わってないんだね、高橋って。あれで懲りたと思ってたのに」

「なー、俺も懲りたと思ってたよ」

二人で顔を見合わせて思いっきり溜息をつくと、呆れたように肩を落とす。

そんな俺たちに焦れたのか、じっとやり取りを聞いていた葛西が口を開いた。

「話が見えねぇ、説明しろ」

「……」

じろりと睨みつける葛西を、うっとりと見ないでくれ。祥子。

肘で脇をつつくと鬱陶しそうに俺を見て、はいはい、と溜息をついた。

「高橋大樹は、私の大学の先輩。まぁ、一言で言えば“最悪な男”です」

「最悪な男?」

聞き返す葛西の言葉に頷いて、祥子はマグカップを手に持った。

「まぁ、そうね……

ほんの少し顔が整っているからか、会社の御曹司だからか、態度のでかい奴なのよね。出来もしないくせにトップに立ちたがるだけでもウザイのに、自分の要望だけ周りに押し付けてふんぞり返りやがって。思い出すだけでも頭にくるわ!」

「どうどう」

思い出して叫びだした祥子を、何とか宥める。

祥子に説明させようと思ったけど、こりゃ無理かな。


俺は息を吐き出して、葛西を見た。


「四年前、祥子が大学二年の時にな。高橋に言い寄られたことがあって」



目を瞑って、過去を思い出す。



あれは大変だった。

皆の前で告ったからか、断った祥子に対して物凄くしつこくて。

電話もメールも、待ち伏せも。

最初はまとわりついていた高橋もだんだん焦り始めたのか――


「祥子の悪口を広め始めたんだよ。しかも、ある事ない事」

「はぁ? 意味わかんねぇ」

「要するに、そんな女だから振られたんじゃなくて、自分が愛想をつかしたっていう風に演出したかったんだよ」

祥子も見た目から想像できない様なきつい言い方をするものだから、味方も多いけど敵も多かった。

祥子は無視してたけど、さすがに我慢できなくなって。

「俺と祥子で、まぁちょっと仕返しした感じ?」

な? と祥子を見ると、ちょっと引きたくなるくらいの腹黒い笑みを浮かべておられました。

「あの顔は、いつ思い出しても笑えるわ。いいわよねぇ、自信満々な男の自信喪失したあの様は」

ニヤリと笑う祥子に、葛西まで引き気味だけど。


「まぁそれが効いたのか祥子にちょっかい出すことはなくなったんだけど、でも他の女へのちょっかいは止まらなかったと」

祥子とのことに決着がついた後も、いくつか同じ様なことをしていた。

付き合えば扱いはぞんざい。

断れば逆切れされる。

それでも祥子のように酷い状況になった人はいなかったから、懲りたのかなぁと思ってたんだけど。

「他社の人間に迷惑掛けるとか、ありえない。女癖悪いから、絶対理由はいつもどおりよ」

溜息をつきながら、思わず祥子と顔を見合わせた。


「「振られた腹いせ」」


「なんだよ、それ」


同時に言った俺と祥子の言葉に、葛西の声が続く。

「そんなもので、ミスの擦りつけとかするわけ? 子供じゃあるまいし」

「身体は大人だけど、頭ん中は子供なんだよ。御曹司っていったっていろいろいるのになぁ。いい人だって多いのに。高橋は違ったと」

「御曹司とか関係なく、あの男ほど最悪な人間、見たことないけどね」

祥子が苦々しそうに言葉を吐き出しながら、携帯を手にとった。

「で? どこまでやる?」

腹黒い笑みを浮かべる祥子に、ニヤリと笑い返す。

「……さすが、話が早いな」

「まさか、私から葛西さんに説明させるだけなわけじゃないでしょ?」

「協力してくれるんだろ?」

「当然。私好みの葛西さんをつれて来てくれた上に、リーマンスタイルだなんて。私に対する袖の下でしょ?」


へっへっへと、まるで悪代官と商人のようなやり取りをしていたら、葛西の堪忍袋が切れました。


「だーかーらーっ! おまえ達、勝手に意思疎通するなよ。まったくわかんねぇっ」

「……」

……だから祥子。今、怒られてるんだから幸せそうな顔しないでね。

余計に怒られそうだから。

「あのな……」

葛西に説明しようと口を開いた時だった。


脱いだスーツの上着から、携帯の着信音。

手を伸ばして、携帯を取り出す。

開いたそこに表示されていた名前は。

「……久坂?」

久坂からだった。

久坂から電話が来たことなんて、ほとんどない。

あっても仕事の時だけ。

無言で葛西と顔を見合わせる。

もしかして、ばれたか?

勝手に行動してるのが。


思わずじっと携帯を見つめていたら、ぷつりと音が切れた。


「……やば、切れた」


とらなきゃもっとやばいと思いつつ、とりたくないほうが勝ってしまった。

「何してんの、はる兄」

祥子が不思議そうに俺を見る。

「……うん、あのな祥子。怖いんだよ、とるの」

そう答えていたら、再び手の中で携帯が音を発し始めた。

何気に、着信音ですら怒りを感じるのはなぜだろう。

出なきゃ、不信がられる。

でも、もしばれてたとしたら、高橋に何かするより怖い。

いやいや、そうだ、もしかしたら仕事の話かもしれない!

休みだけど、あいつ出てるかもしれないしっ!

大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせると、通話ボタンを押して耳に当てた。


{佐木、今どこ?}


恐ろしく落ち着いたその声は、俺の願望を打ち砕く低い低い声でした。



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