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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第三章 目指すのは
33/40

佐木 祥子

二十四歳 社会人二年目。

真っ黒なセミロングの髪と、細身の眼鏡。

とある企業の研究員をしている彼女は、見た目だけなら綺麗系のおねーさん。






「で? 休日にこの格好で、一体何?」

翌日、葛西と向かったのは自宅の最寄り駅から三十分ほど郊外に出た場所。

程よく田舎、程よく都会。

そこに降り立った俺達は、確実に浮いていた。

土曜日だというのに、スーツで完璧リーマンスタイル。

意味もないのに、ビジネスバッグ付。

中身は、カラ。

一体これから何をしに行くんだと、突っ込みたくなる二人組。

俺は訝しがる葛西を促しながら、改札を通って外に出た。

そのまま慣れた道を歩きながら、自分自身の気持ちを落ち着ける。

「葛西、先に言っておくから。これから何があっても、流されろ。いいな?」

怪訝そうな表情を浮かべていた葛西は、眉間に皺を寄せながら横を歩く俺を見上げてくる。

「どういうことだよ?」

「行けば分かる。あー、この手は使いたくなかったけど、先があいつなら一番効果的でこっちに被害が少ないんだよな」

「お前の言い方、分からなすぎて頭にくる」

「百聞は一見にしかず」

それだけ言うと、訝しがる葛西を無視して目的地に足を向けた。



ついたところは、とある一軒家。

「“佐木”?」

そこの表札を見て、葛西が首を傾げた。

「お前んち? 実家?」

慣れた様子で門扉を開けて入っていく俺に、葛西が止めていた足を動かして付いてきた。

持っていた鍵で勝手にドアを開ける。

「いや? 俺んちじゃねーよ」

そう言って、奥に向かって声を掛けた。

「うぉーい、つれてきたぞー」

「は? つれてきた?」

靴を脱いで上がった俺は、二階から降りてくる足音に壁際に寄る。

避難完了!


そして何が起こっているのかわからずにハテナマークを沢山つけている葛西に向かって、両手を合わせた。

「久坂の為に、さぁ頑張れ」

「は?」

何を? とでも言うように口を開きかけた葛西の前に、それは現れた。


「おっしゃ、眼鏡スーツ!!」


二階から駆け下りてきた奴の叫び声に、葛西の動きが固まる。

デジカメのシャッター音と、悶える声だけが響く玄関。

呆気にとられる葛西と、それをデジカメで撮影している女が一人。

そして傍観する、俺。


しばらくしてやっと現実に戻ってきたのか、葛西が呆然としたまま俺に視線を向けた。

「……どういう?」

うん、そうだよね。

もう充分、堪能しただろう。

さすがに葛西が可哀想になってきた俺は、未だ嬉々としてシャッターを押し続けている女に声を掛けた。

「おい、祥子。もうそろそろいいだろ?」

「えー、もう?」

嫌そうな声を上げる女……祥子の手からデジカメを取り上げると、恨みがましそうな目が俺を睨み上げる。

睨まれてもね。俺も、葛西が怖いんです。

溜息をつきながらその額を片手で押すと、デジカメの電源を落とした。

「あんまやると、逃げられるぞ」

「それは困るっ! これから遊び倒すんだから!」

「うん、ちょっと待て。それは俺が困る」

遊び倒されたら、葛西に蹴り飛ばされる。

電源を落としたデジカメを祥子に戻しながら、呆気にとられている葛西を見た。



「すまん、葛西」

「は?」

一応謝ってから隣に立つ祥子を、手のひらで指し示す。

「こいつ。眼鏡男子をこよなく愛する、俺の従妹」

「佐木 祥子。眼鏡男子にスーツが大好物」

俺の従妹が、他で聞いた事もない自己紹介を、満面の笑みで葛西に披露してました。





呆気を通り越して呆然としている葛西をとりあえず家に上げて、リビングのソファに座らせる。

その向かいに腰を降ろして、隣に祥子を座らせた。

「あー、なんというか、うん。あれだ。眼鏡男子好きの、ほれ……」

「腐女子でもOKだけど、呼び名なんてどーでもいいの。ただただ私は、眼鏡とスーツが好きなだけだから。葛西さん、最高っ。もう、理想に近い!」

「はぁ……」


ドン引きしてるよ、葛西。


「理想に近いってことは、理想じゃないんだ。お前、好みうるさいな」

再び取り上げたデジカメをちらちら見ながら、祥子はセミロングの髪を耳に掛ける。

「眼鏡にスーツ、細身に切れ長の目。出来れば髪を後ろに撫で付けて、白衣も着てくれたら最高」

「その時点で、そいつサラリーマンじゃなくなるよ」

「いいの別に、リーマンじゃなくても。さぁさぁ、葛西さん。白衣着てみましょうか」

嬉々として立ち上がろうとした祥子の腕を掴んで座らせる。

「とりあえず落ち着け。用があるって言っただろ?」

「はぁ? じゃあ、はる兄が着る? 筋肉質すぎて、私の好みじゃないけど」

「やんねぇよ。いいから少し黙ってくれ、だんだん頭痛くなってきた」

立ち上がろうと身じろぐ祥子を、頭に手を置いて押さえつける。


「……佐木?」

その声に祥子と二人で見ると、驚いて凍りつきそうになるくらい冷たい視線にぶち当たりました。

「説明を」

端的な言葉に葛西のイラツキを感じて視線を逸らしたら、真横にいた祥子が視界に入った。

「……」


その目がうっとりとキラキラ輝いていたのは……、見ないことにしておこう。


そういえばこいつの好みは、「眼鏡」「スーツ」そして「S」だった。





佐木 祥子

二十四歳 社会人二年目。

真っ黒なセミロングの髪と、細身の眼鏡。

とある企業の研究員をしている彼女は、見た目だけなら綺麗系のおねーさん。



決して、中身を知らなければ。の、話だけど。

……誰かと似てるとか言うなよ。俺は、ここまで変態じゃない……はずだ。←弱気




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