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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第三章 目指すのは
29/40

今回、短めです。

すみません。

頑張りますよ


幸せな朝のひと時を 


取り戻すためにね


         第三章目指すのは――





「ほら、これが久坂が異動する前についてた、取締役のスケジュール」

「……」

目の前でピラピラ振られる紙を、指先で摘む。

それを見ながら、椅子の背もたれに体重をかけた。

「……俺、死にそう」

「馬鹿じゃないの、お前」

両足を開いてだら~っと椅子に座る俺を、PCに向かっていた葛西が振り向きもしないで言い捨てる。

その冷たい仕打ちに、長い足←(重要)で椅子を蹴り飛ばすと、油断していた葛西は前にのめって液晶に額をぶつけて固まった。

「親友に冷たいお前には、しゃべらないパソコンがおにあいだっ。鬼っ、葛西の鬼っ」

その姿を目を細めて笑ってやると椅子を回転させた葛西が、ずれた眼鏡を直しながらゆらりと立ち上がった。

「俺に八つ当たりしても仕方ないだろ、お前の自業自得なんだから」


両手を腰に当てて俺を見下ろす葛西は、まるで久坂が乗り移ったかのよう。

冷たいわ、ホント。

紙を持っている手をだら~んと下げて、目の前の葛西を見上げる。

「俺、遥ちゃん切れで頭変になりそう。今なら軽く死ねる」

「よし、俺が許す。逝って来い」

「そっちかよっ」

力なく乗り突込みをしてみたけど、お互い深く息を吐いて目を逸らした。


遥ちゃんと会わなくなって、既に二週間。

あの日以来、会っていない。

ていうか、会っていないだけじゃなく見てもいない。

出勤する時間を変えたらしく、話すどころか電車で見かける事もなくなった。

そこまで徹底するか……。

よって葛西も会っていないらしい。

これは完全に、とばっちりといいます。



「しっかしなぁ……」


ここまでさっぱり会わなくなると、余計に気になるもので。

電車の中でつぶされていないか、とか。

誰かに声を掛けられてないか、とか。

俺は、付き合いたての彼氏か!

しかも、彼氏でもねーし。



葛西は椅子に腰を降ろしながら、苦笑する。

「自分で蒔いた種だろ? 俺の方が巻き込まれてんだから、いい加減立ち直れよ」

天井を見ていた顔を前に戻すと、葛西と目が合った。

「それにしては葛西、あんまり残念そうじゃないよな。お前も、遥ちゃんの事気に入ってたんじゃなかったっけ?」

「可愛いと思うよ? 趣味も合うし。でも、今は久坂の方が気になる」

「うぇっ?」

葛西の言葉に、びっくりして反らしていた上体を前にのめらせる。

「お前、くっ、久坂のこと? 女王久坂のこと?」

どもりながら葛西を見ると、眼鏡の上から額を手のひらで抑えると反対の手を俺に向けた。

「……言い方間違えた。今は、久坂の異動理由の方が気になる」

「隠さなくてもいいのだよ、葛西君!」

「もう、いい。とにかく話が進まない」

興奮気味に叫ぶ俺の顔を前に出した手で押さえつけて、そのまま戻された。

意外と力あるのね、葛西君。

潰されかけた顔をさすりながら、手に持ったままだった紙を見た。






「あいつ、結構いいポジションにいたんだねぇ」

そこにはこの会社で上から四番目……社長、副社長、専務←ここの次席。の名前。

葛西は同じ様に紙を見ながら、顎に手を当てる。

「有田次席専務……、温和でいい人だった気がするけど」

「だなぁ、別に一つのミスくらいで飛ばす人じゃないよな」

まぁ一対一で話したことがあるわけじゃないから、はっきりした事はわからないけど。

そう言いながら、今年度十月以降の予定を確認していく。

久坂が事業商品部に異動してきたのが十一月だから、多分十月にあった行事のどれかだろう。

んで、相手先がミスしてこっちが被害を蒙ったとなると……

指先でなぞっていた日にちを、十月の中旬で止める。


「これ、かな」

呟いて、葛西の机に紙を置く。

それを覗き込みながら、葛西が少し身体を椅子ごと横にずらす。

開いた場所に立って、問題の場所をトントンと指先で叩いた。


「十月の予定の中で、最後に久坂と出席してるのがこれ。他のは社内や下請けだから省いていいだろ」

「で?」

「相手先のミスを擦り付けられた上に文句も言えない。しかも上司に迷惑をかけた。つーことは、うちより大手で次席専務が何か役を負っていた対外的なイベントだと考えるのが妥当」

葛西が背もたれに体重を乗せたらしく、ぎしりと軋む音が響く。

俺は葛西の机に浅く腰掛けると、置いた紙を持ち上げた。

「ここの会社はうちより大手の取引先だ。もしこの会社に取引を解消されたら、結構どころじゃない痛手を蒙る」

「本店の取引先だろ? よく知って……と、そうか。お前、もともと本店の商管にいたんだっけ」

葛西の言葉に頷いて、もう一度スケジュールののった紙を見た。


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