佐木的冬の恋人脳内妄想
佐木が、馬鹿です。痛いです。読んでどん引きするかもしれません。
耐性あるよ~な、方だけ、お読みくださいませ^^
「小樽?」
井上さんが出張の準備をしながら、お土産何がいい? と話を振ってきた。
「そ、小樽。札幌とかあの辺の店舗の店周りをかねて、ガラスメーカーとか回ってこようと思って。なんか欲しいもんあるか? 土産選ぶのが一番面倒なんだよ」
――特に久坂の
なんて言葉が後に続きそうな気がしたけど、そこは田上さんも流す事に下らしい。
微妙な空気が、俺達三人の間に流れる。
「あ、私びーどろ欲しいです」
俺達の空気にまったく気付かないある意味空気を読まない(読めないのではない、読まないのだ)久坂は、PCに向けていた視線を上げて井上さんを見た。
「びーどろ?」
俺が首をかしげると、田上さんがこれだよこれと何かを摘むような仕草の手を口元に持っていく。
「……縦笛?」
「せめてリコーダーといえ、ぎりぎり現代人」
え、俺、ぎりぎりなの?
「なら、久坂もぎりぎ……いえすみませんでした! 俺だけです!」
途中から睨みつけられて、パーテーションの下に顔を沈める。
隣では、よろしい、と呟く声が聞こえてほっと息を吐いた。
井上さんは苦笑しながら最後の書類をバッグにいれて、ファスナーをしめる。
「ほら、あれだよ。長崎土産で有名な、あーとあれなら知ってるか?”ぽっぺん”」
「あぁ、あれ! 息吹くと”ぱぽん”って音する奴」
それそれと言いながら、井上さんは椅子に座った。
この後、一時間ほど仕事してから行くらしい。
ご苦労様です、俺は手伝わないけどね。
「せめて”ぽぺん”とか言いなさいよ。一応ぽっぺんなんだから」
久坂の突っ込みに、田上さんが答える。
「というか、二人とも音楽家? あれ、”ぽこっ”て音しかしないだろ」
「俺には”ぺこ”ってしか聞こえないけどな。でもそんな事どうでもいいだろ。音よりも、あの繊細なガラスの綺麗さを絶賛するべきだろ」
バイヤー暦八年目の井上さんは、本店(うちの会社の主幹事業店舗部の事ね。決して店という事じゃなくて)でも今の事業部でも、扱っているのは綺麗目シンプル雑貨。
大人の女性の為の雑貨だけあって、クリスタルガラスを使った雑貨も多い。
ゆえに、そういった物へのこだわりもでかい。
そして、うるさい。
「そもそもビードロっていうのは……」
語り始めた井上さんから、おもむろに視線を外す。
始まったら、ちょっとやそっとじゃ止まらない。
ここは放っておくのがベスト。
「あ、井上先輩。小樽ですか、出張」
ここで、まったく空気を読めない後輩(久坂と違って、本当に読めない)が俺の横で声を上げた。
機嫌よくこだわりを話していた井上さんはそれを邪魔されて少し眉を顰めたけれど、そこは大人。
自分より八歳年下の後輩に怒る事もせず、やんわりとした笑みを浮かべて頷いた。
「そう。伊藤は何がいい? 土産」
伊藤 康之、今年二年目の新人バイヤー。
最初の一年を富山の店舗で過ごした伊藤は、今年……といってもまぁもうすぐ一年になるけど、事業部バイヤーとして本社に異動してきた。
ある意味、期待の新人。
でも、どっかずれてるんだよねー
伊藤は持っていたバイヤーの月次予定表をデスクに置くと、背もたれに体重をかけた。
「土産って言うか……俺、一緒にいきたいっす」
「……」
そこかよ。
井上さんは一瞬口を噤んで、部長席を見た。
向こうでは部長も顔を上げて、こっちを見ていて。
何かアイコンタクトを交わしたらしい。
「いいよ」
あっさりと承諾した。
「……」
全員に、沈黙が降りる。
そして、一瞬の後――
「えぇぇぇっ! ずるい! 私も行きたいです!」
「俺も! かに! いくら!」
「マジでか、出張、そんな簡単に決めんのか」
「え! マジっすか!!」
久坂→俺→田上さん→伊藤
俺達の叫び声に井上さんはひらひらと手を振って、落ち着けと苦笑する。
「もともと誰か連れて行けるなら、店周りもあるから連れて行くつもりだったし。伊藤、急ぎの仕事なさそうだし。ただ、今日は本社で仕事して明日小樽に来い」
「はい!」
出張を認められて喜んだ伊藤は、上機嫌でキーボードを叩き始める。
航空券の予約をしているらしく、安いのを探します~とかいって嬉しそうにカタカタ指先を動かしている。
「なんだよなー、いいなー。俺もそういえばよかった」
「そんなに小樽行きたかった?」
不貞腐れたように井上さんを見ると、深く頷く。
「会社の金で、北海道! 会社の金で、三食メシつき!」
「そこかよ」
そこです。
「でも、クリスマス時期とかじゃなくてよかったですね」
久坂が俺をすっかり無視して、話を変える。
井上さんは苦笑しながらそうだなぁと、頷いた。
「カップル多いもんなぁ」
「しかも寒いから、くっついてるイメージですよね。実際知らないけど」
知らないならいうなよ、久坂。つーか、お前恋人とそんな事、絶対しないだろ。
手を引っ張って、お前が引き連れて行きそうだ。
そう思ったけど、口からは出しません。命は惜しいです。
「あー、でもあれだよな。寒くなると、目に痛いよな。カップルって」
「独り身にはきついってか?」
ニヤニヤしながら井上さんが、田上さんをからかう。
「田上先輩、彼女いないんすか?」
「――」
伊藤が、あっさりと爆弾投下。
田上さんは片方の口端だけ上げて、目をデスクの上に落とした。
「へっ、二十九歳独身彼女ナシのどこが悪い」
「別に悪くなんてないっすよ。いたらいたで、結構面倒だし」
「……そうかい」
フォローになってねーよ、伊藤!
「冬で寒いってのに手袋するなとか、お前はSか! とか、言いたくなりますよね。佐木先輩」
「……なんで俺に振る」
そう聞き返すと、きょとんとした顔で首を傾げられた。
「いますよね、彼女」
なんだその断定は。
とりあえず同じ仕草で首を傾げてみる。
「いませんよ? ここ数年」
しーん
「嘘だぁっ! その顔で女いないって、佐木先輩に彼女いなかったら他の男どーすりゃいいんですか!」
「……」
――空気読もうか、伊藤
今まさに、このフロアの男性社員、敵に回したぞ。
俺は助けないぞ、絶対に助けないからな。
「お前いるだろ? 彼女」
驚いて立ち上がった伊藤に、冷静な声で問いかける。
伊藤は少し落ち着いたのか、立ったまま頷いた。
「いますけど、最近うるさくて。外でメシ食えばいいのに、わざわざ俺んち来るとか。手袋禁止とか。マフラー禁止とか」
あー、なるほどねぇー
ぶつぶつと文句を言う伊藤に向けて、ふっと笑う。
「甘い、甘いな伊藤」
「甘い?」
怪訝そうに聞き返してくる伊藤に、右の人差し指を揺らして頷く。
「彼氏の家で、二人でご飯! 最高のシチュエーションじゃないか! 何を嫌がる。あったかい部屋で好きな彼女の手作りご飯。何にも勝るご馳走じゃないか。」
「へ?」
ぽかん、としている伊藤は無視。
「一生懸命作る彼女をまったり見るのもよし! 一緒に作ってみるのもよし! ちょっと手をだ……っといやいや、これは久坂がいるから止めておこう。出来上がった後、”おいしい?”とか聞かれてみろ! 俺は壊れた人形のように頭を縦に振るぞ」
「……はぁ」
「手袋禁止とマフラー禁止? いいじゃないか、大いに結構だ。手袋したら、手を繋いでも彼女のぬくもりを感じられないだろうっ」
「……マフラーは?」
呆気にとられながらも気になるのか、ぽつりと聞いてきたその言葉に目を瞑る。
「わかってねぇなぁ。男は女性のうなじとか……とか(←伏字・ご想像にお任せします)に目が行くだろ? 女性にとってのそれは、男の喉仏だ! 筋張った手だ! 筋肉のついた腕だ! 人は、自分に無いものに魅力を感じるんだ! 何でそこをわざわざ隠す。見せとけ、大いに見せておけ!」
「……でも、寒いし……」
「鍛えろ! 寒さなんか感じないほど、そこは鍛えておけ!」
「んな、無茶な……」
なんだこいつ、軟弱な。
「それに手はコートのポケットに突っ込めばいいだろ? 彼女の手を握ったまま。そうすれば暖かいし、密着度三割増し」
あ、でも両手突っ込んだら危ないからやめような。
周りにあまり人のいない、危なくない場所でのみ実行しましょう。
「でも佐木先輩、マフラーも手袋もしてるじゃないっすか」
「あくまで彼女がいる時、彼女に請われたらの話に決まってんだろ。手袋してなくたって繋ぐ手ねぇし、大体こんなクソ寒い時にマフラーなしで表歩けるか」
……矛盾、してないか?
内心もやもやしたものを感じながら、伊藤はぽつりと呟いた。
「――佐木先輩の、理想って……」
伊藤の言葉に、理想? と呟きながら両腕を組んで目を瞑る。
「そーだなー、冬、限定でいけば」
脳裏に、遥ちゃんの姿を思い浮かべる。
いま一押しの可愛い子だからね。
「寒い雪道とか一緒に歩いてると、やっぱり足元とかふらつくわけよ。ブーツとか履くだろ?
で、ふらついた彼女に手を差し伸べると、ちょっと迷ってからそっと両腕を絡めてくる」
遥ちゃん(仮)だったら、縋りつく勢いなんだろうなぁ~
縋りついた俺の腕に赤くなった頬をつけながら、そっと俺を見上げる。
――佐木さん、すみません
本当に申し訳なさそうにそれでも嬉しそうな複雑な表情の遥ちゃん(仮)の頬を、反対の手の甲でゆっくりと撫でる。
――謝ること、無いし
ね? と俺が笑うと、遥ちゃん(仮)は恥ずかしそうに頬に触れた俺の手の上から自分のそれを重ねて、きゅっと頬に押し付ける。
――佐木、さん
――ん? どうした?
俺の手を掴んだまま、俺に視線を向ける。
――佐木さんの手、あったかい……
……ちょっと向こうの方で、一人で悶えてきてもイイデスカ。
想像したら、思わず顔がにやけた。
やばいやばい。
一応、口元を引き締めながら続きを話し出す。
「それから少し恥ずかしそうに視線だけ俺の方に向けて上目遣いで、”ごめんね?”とか言われてみ?
しかも真っ赤な頬に、恥じらい姿で! もう、おっさんそこでお手あ……あれ? 皆さん、どこに行きやがりました?」
再び目を開けると、そこには誰もいなかった。
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――五階端にある、休憩室。
佐木の主張披露から逃げ出してきた四人は、置いてある長机に思わず突っ伏した。
「なんか少し前にあった光景だな。てか、これから飛行機乗る俺にどんな拷問だ」
井上は買ってきた無糖ブラック缶珈琲を田上と久坂と伊藤に手渡すと、いち早くそれをあけてごくごくと飲み干す。
「だな。あいつの頭の中は、お花畑だろう。そうだろう? そうに違いない」
田上も耐え切れないというように、身を震わせる。
「一つフォロー。大丈夫、君の彼女と佐木は違うから。あとね伊藤くん、お願いだからあの手の話は絶対振らないで。ウザすぎて吐きそう」
伊藤は久坂の言葉に壊れた人形のように頭を縦に振りながら、ガラス越しに見える佐木に視線を向けた。
そこにはきょろきょろと辺りを見渡して首を傾げる、見た目だけはまともな男、佐木 悠斗の姿。
――彼女いないの、納得……
四人の溜息が、休憩室に響いて消えた。
お気に入り登録、本日300件を超えさせていただきました。
本当にありがとうございます。
そのお礼と言う感じで直接一気書きしてみたんですが……
やばいです。お気に入り登録減るかも……@@;
ま、300件頂いているうちにってことで^^
しかし……前作から読んでくださってる方々、ギャップが凄いんじゃなかろうか……