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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第二章 合わせるのは目線
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14

「ほら、遥。ちゃんと前見て歩きなさい」

「は~い、先輩!」

「遥ちゃん、まだ酔ってるな」

「だね」


久坂の腕に纏わりつく遥ちゃんを見ながら、葛西と後ろを歩く。

あの後三十分くらい寝させといたら、やっと目を覚ました。

まだあんまり酔いが抜けていない状態だったけど、明日のこともあるしという事でお開きになったわけだけど……。

まぁ、当たり前と言うかなんというか。

さすがに酔ってる遥ちゃんを久坂一人に押し付けるわけも行かず、かといってこっちが背負うのは久坂に拒否され、仕方なく二人の後ろから歩いてアパートまで送る事になった。


そしてもう、彼女の呼び名は遥ちゃん決定。

久坂提案で。

素面に戻っていきなり言われて面食らう彼女を見るのが楽しそうだから、そんな鬼畜な理由で決定。

まぁ、俺としても呼び捨てで呼べと言われてだいぶ恥ずかしかったから、すぐに頷いた。

少しは恥ずかしさを実感してもらいましょう!

さすがにちゃん付けだけどね。



「先輩~、お腹すきましたぁ」

「は? さっき食べなかったの? それにしては結構な金額いっていた気が……」

遥ちゃんを見ていた久坂は、途中でその理由に気付いたのか顔だけ振り向けて俺に視線をよこす。

「佐木、あんたの所為ね」

俺はついその視線から目を逸らすと、どもりつつ口を開く。

「井上さんも言ってただろー。俺はエンゲル係数でかいって」

「言ってたけど、まさかここまでとは。葛西に少し持ってもらえて助かったわ」

そう、思った以上に掛かった金額に久坂が財布から札を数枚取り出しているうちに、葛西が黙って一万円札をレジに差し出したのだ。


久坂が気付いて振り向いた時には、既に店の外。

葛西って、ホントさらりと人を気遣うよな。

多分、俺には無理だ。さらりとできない。

ちなみに俺も差し出してみたけど、今日の意味がなくなると久坂に突っ返された。

……寂しい。

懐的には嬉しいけど。


葛西は、別に……と久坂に応えながら、ぐるりと辺りを見渡した。


「それよりもさ。結構、駅から遠いところに住んでるんだね。二人とも」

かれこれ十分は歩いているから、下手したら駅に帰るより俺たちのアパートの方が近い気がする。

俺と葛西が住んでいるアパートは十五分位離れているけど、ここからなら同じくらいの距離かもしれない。

久坂は前を向いたまま、そうねぇと笑う。

「あぁ、もうつくわよ」

そう言って視線で示した先にあるのは、二階建ての綺麗な外見をしたアパート。

レンガを用いた外壁は、いかにも女の子が好みそうな雰囲気で。


「大学からここに住んでるからあまり考えなかったけど、確かに駅からは遠いいわね。もう少し駅近くにアパート探そうかしら」

防犯のことを考えても、もう少し駅に近くてもいいよな。

特に久坂、帰りが遅いんだから。

「えー、先輩ってば引っ越しちゃうんですか? 寂しい」

世間話的な俺たちの会話に、なぜか反応したらしい。

いきなり立ち止まって、ぎゅっと久坂の腕を抱きこむ。

久坂は困ったように、頭を撫でた。

「引っ越さないわよ、まだ。まったく、酔わせるとこの子ってば面倒ね。次から気をつけよう」

「酷い~」

泣きそうな顔になる遥ちゃんに、久坂は苦笑する。

「悪かったわよ。あんたの許容量知ってて、止め忘れたんだから。はい歩く。すぐそこなんだから。私達がアパートつかないと、後ろの男性陣が帰れないのよ」

「ふぇ?」


遥ちゃんが、首を傾げながら俺たちの方を振り向く。

さっきよりは赤みの引いてきた頬が、街灯に照らされてちょっとだけ年齢相応に見える。

ていうか、久坂に言われるまで気付かなかったのか、俺たちの存在に!

「心配だったから、ついてきたんだよ」

遥ちゃんは俺の言葉に、なぜか目を細めて口を真一文字に噤む。

その態度の変化に、久坂も気付いて遥ちゃんを見下ろした。

「どうし……」



「こんなことで私を心配する位なら、なんで先輩を助けてあげなかったんですか!?」



初めて見るこちらを睨みつける顔に、俺と葛西は目を見開いた。

言葉を遮られた久坂は、その口を開いたまま遥ちゃんを見ている。

「え、助けるって……」

葛西が不思議そうに尋ねる声に、久坂が弾かれたように遥ちゃんの口を塞いだ。

「ダメねぇ遥ってば、飲みすぎ! んじゃ、ここでいいから! あんた達も気をつけて帰りなさいよね!」

そのままぐいぐい遥ちゃんを引きずって、目の前のアパートへと歩き出す。

「お、おい久坂……?」

慌てて足を踏み出すと、久坂は振り向きもせずに声を上げた。

「あーあー、酔っ払いの戯言なんて本気にしないの。おやすみー」

そのまま久坂たちは、アパートの敷地内に入っていった。

俺達はそのままの場所で止まったまま、階段を上がって部屋に入る二人をじっと見ていて。


遥ちゃんを部屋に入れた久坂が自分の部屋に入る時、一瞬こっちを窺うような表情をしていたのを見逃さなかった。


とりあえず二人とも部屋に入ったのを確認した後、俺達は目を合わせてもう一度久坂の入っていった部屋のドアを見る。



そしてため息をついた後、眉を顰めている葛西に向かって苦笑した。



「さて。……どう動く?」


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