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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第二章 合わせるのは目線
21/40

13

「「……」」



……なんで俺の分析は早いんだよ……



報告書の理解は壊滅的だったくせに、と内心悪態をつきながら顔を前に戻した俺は、そこに見えたまん丸なお目目に固まった。


じっと俺を見上げる藤村さん。

あまりにもじっと見られるものだから、おっさん挙動不審になりそうな感じです。

「……何?」

おずおずと聞いてみると、にへら……と笑みを浮かべられた。


その姿にどくりと心臓が音を立てる。

思わず、胸に手を当てる。

……なんだ、今の。

幾度か瞬きをしてから、もう一度藤村さんを見た。



「遥って」

「……ん?」

「遥」

にこにこと笑う君は、今、何を言っているのか分かってますか!? 藤村 遥さん!!

聞き返すと、だから、と口を開く。

「私は、遥です。遥。分かりますか?」

「……わ、分かりますが」

なんで俺まで敬語……

よく見ると、半分くらい目が閉じている。

「あ! 佐木さんも敬語使いましたね!? ペナルティーという奴ですね?」

けらけらと、楽しそうに笑い出した。


……君は酔ってるって奴ですね?


現状を理解して、思わず苦笑。



「梅酒三杯飲み干してたっけ、さっき。許容量越えたかなー」

久坂が藤村さんの飲んでいたグラスをつつきながら、面白そうに俺たちを見ている。

先に気付いて止めてくれ!

どうすりゃいいんだ、これ。

俺は、変態にも犯罪者にもなりたくないぞ!

つか、なりそうで怖いっ!


藤村さんは、にこにこと笑いながら俺を見上げていて。

さっきと形勢逆転した状態。


「遥、です」

「はい?」

「ペナルティー。呼んでください。私は、遥、です」


……名前で、呼べと。

そういうことですかね。

呼ぶくらいは別にいいんだけど、なんかすげぇ恥ずかしいんだけど。

じっと後ろで見ている、素面の同期の目線が。



目の前には、期待に満ちた藤村さん。

後ろには、同期。



――呼ぶしかないですね。これは。


「はるか、ちゃん」


呼び捨てはないだろう、さすがに。

すると藤村さんはむっとした顔をして、違うっと首を振る。

あーあー、余計に酒が回るから……

止めようとそっと肩に手を置くと、ぴたりと止まった。

「遥、です」

……はいはい、呼び捨てね。


「なんかお前ら、面白い。ウサギがクマに説教してる感じ」

葛西が面白そうに笑っていて。

つーか、俺はクマか!

あるだろう、ライオンとかトラとかもっとかっこいい奴が!

「え? サイかカバ辺りじゃない?」

てめ、久坂……


そんな会話を聞きながら、どうしたもんかと藤村さんを見下ろす。

彼女は、じっと期待の目を俺に向けていて。


可愛い子を相手にしていたはずが、酔っ払いの介抱になってきたなこりゃ。

まぁこんな状態でも可愛いけど。


俺は小さく息を吐くと、諦めて口を開いた。



「遥」



そう、呼ぶと。



にこぉっと笑みを浮かべて……




こてん、と顔をうつむ向けてしまった。

「あ、あれ?」

肩に手を置いていたから倒れる事はなかったけど、いきなり掛かった重みに慌てて肩に腕を回して支える。

すると顔がかくんと横に向いて、その表情が俺たちの前にさらされた。


ていうか……



「寝てる……」



俺の呟きが、しんとした部屋の中で響いた。



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