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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第二章 合わせるのは目線
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12


「えっ、あのっ!?」

「うーわー、やっぱり柔らかいっ」


ゆっくりと髪に指を通すと、柔らかい髪の感触が肌から伝わってくる。

調子に乗って両手で髪を撫でると、びくりと藤村さんが震えた。

「あ、ごめん。くすぐったかった?」

そう聞きながらも、手の動きは止めない。


「おい、佐木。何やってんだよ」

葛西が少し怒ったような声音で、俺の肩を掴む。

「あ、お前はダメだからな? 言い出しは俺なんだから、また便乗はさせないぞー」


そう。

無性に、髪に触れたくなったのだ。

久坂がさっきから気軽に頭を撫でるものだから、つい、目がいって。

結んであるゴムを解いた時、ふわりと広がったその柔らかそうな髪に。

無性に、指を絡めたくなった。


「佐木……」


呆れたような呟きが聞こえるけど、無視~。

葛西は呆れ果てたのか肩を掴んでいた手を下ろして、でかいため息を吐く。

「つーか、お前の仕事のやり方を垣間見た気がするよ。流石交渉ごとを生業にしてるだけあるわ。何、その誘導尋問的会話」

「任せろ! 自分のやりたい事を叶えるためなら、惜しげもなく晒すぞ! バイヤー歴三年のこの腕を!」

大見得切れるほどの年数でもないけど!

「馬鹿じゃないの、お前」

背中を足蹴にされても、痛くないもんね。

羨ましいんだろー。

目線だけでそう告げると、なぜかもう一度足で蹴られた。

ちっ、考えてる事はお見通しか。



再び顔を藤村さんに向けようとした時、それまで黙って見ていた久坂が残念そうな顔で俺を見た。

「ちょっと……、ほんの少しだけ見直したばかりなのに……」

「だって可愛いんだもん、仕方ないじゃないか!」

「もんとかいうな、二十七のおっさんが!」

「なら、お前もおばさ……、はい、すみませんでしたっ! 綺麗で素敵なお嬢様!!」

当然のことを口に出そうとしたら、ものすっごい目で睨まれてすぐさま降参。


よし、と頷く久坂を見てほっとため息をつく。

怖いんだって、怒らせると面倒なんだって、もう。


そう思いながらも、ゆるゆると撫でる手は止めない。

藤村さんは驚いて固まってるのか、ピクリとも動かない。

ホント小動物だな、こりゃ。

俯けている顔も、座高の違いでほとんど見えない。

それをいいことに、絡まった髪を解くように梳いていく。



あぁ、なんて可愛いんだろう。

だめだー、止められない。

髪から覗く耳が、ほんのりと赤く染まっているのが見えるから思いっきり恥ずかしいんだろうなー。

でもごめんねー。

あぁ、ぷちぷちの魔力のようだ……(指で押してぷちぷち潰すのに嵌まったことあるよな? え、ない? いやそれは嘘だ。人類皆、一度はあるはずだ!)



「久坂、止めなくていいのか? お前の後輩なんだろ?」

葛西が少しイラついた声を上げた。

あ、やばい、怒ってる気がする。


けど、止める気もない。

だってもう……、なんていうの?


「えー? いいんじゃない?」

久坂は既に興味を失くしたのか、食べることに戻っていて。

「だって、あの触り方。どう考えたって……」

葛西の言葉に、ちらりと俺を見る。


え? 俺の触り方?


そりゃぁもう!




「シスコン的触り方でしょ」


――俺の妹!




久坂と俺の心の中の声が、シンクロした。



思わず久坂と目を合わせる。

当たり前だけど向こうは俺の心の声なんて聞こえてないから、馬鹿な奴を見るように目を細めているが。


「なぜ、分かった……」

「その顔、シスコンて言うか孫相手にでれでれしてるおじーちゃんみたい。ほらほら、あまりかまうと、お孫さんに嫌われますよ」

「くっ……久坂……!」

思わず手を止めた俺に、目の前から小さな声が聞こえて慌てて顔を向ける。

そこには、俯いたまま口元に手を当てて肩を震わせている藤村さん。

慌てて髪に触れていた両手を、まるで銃を突き付けられたかのように大きく上げた。


怒っちゃったかっ?

そりゃ怒るよな、いきなりこんなことすれば。

俺もいつもだったら思うだけで行動に移さないんだけど、止めらんなくて……っ

って、やべーっ! マジで俺、変態化してる!


見るまに、頭から血の気が引いていく。


違うっ、藤村さんが可愛いのが悪いんだ!

俺は悪くない!

悪くないはずだーっ!


……誰か、悪くないといってくれ。お願い。



内心、ぐちゃぐちゃと考えていたら、俯いていた藤村さんが目だけこっちを見上げてきた。

そこには、溜まり始めた涙……!!



「う、うわぁっごめん! 泣かせるつもりは……っ!」

「やだ、ホント……」

聞こえてきた声は、怒っているようなものではなくて。

「……へ?」

あれ? と、両手を上げたまま彼女を見下ろすと。

口元を押さえながら、笑っていた。


「あれ? ……怒ってないの?」

くすくすと笑う藤村さんは、こてん、と音が聞こえてきそうな仕草で、後ろに腰を降ろす。

おしいっパンツスーツ……じゃなくて。


彼女は顔を上げると、楽しそうに目を細めた。

「だって、ホントに従兄みたい」

「従兄?」

意味が分からず眉を顰めると、藤村さんは目尻に溜まった涙を指で拭う。

「外国に行っている従兄がいるんですけど、帰国する度、佐木さんと同じことするんです。その時の感覚と同じだなぁって思って」

「え、従兄? うらやま……いやいやいや」

まずい。せっかく変態から従兄と同格に変更できそうなんだ、ここでへまをやらかしては……!!


「なんか、酔ってるのかな? 私。いつもなら嫌なんですけど、佐木さん、ホント孝兄さんにそっくりなんですもん。あ、孝兄さんって、従兄なんですけど」

「へ、へぇぇ?」

「孝也さんの方が数倍いい男よ。でもま、いいんじゃないの~? 本気だったら態度改めろって思ったけど、二人ともそんな感じなら都合いいじゃない。上手く電車の中で楽させてもらいなさいよ、遥」

「都合いいって……流石の俺も本気で妹っぽいとしか見てないわけじゃないぞ……。お前も俺の残念な頭の中、知ってるだろう!」


傍に寄れば、ちょっと手を伸ばしたい気持ちになったりするし!

電車の中で彼女を守ってる時とか、すげードキドキしてるし!

藤村さん、パンツスーツ惜しいっとかちょっと思っちゃってるし!


久坂は俺の言葉を鼻で笑うと、心配そうに見ている葛西に手を振った。

「大丈夫。あんな事言っても、遥が嫌がることとか絶対出来ない」

「何で言い切れるの」

葛西は不機嫌そうな顔のまま、久坂に問いかける。

久坂は当然でしょ、と俺に目を向けた。




「本能は男でも、思考は乙女だから」






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