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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第二章 合わせるのは目線
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電車のドアが開いて、どっとホームに立つ人たちが乗り込んでいく。

俺達も他に漏れず、中へと進んだ。

「あ、二つ先の駅で降りて」

「なんで」

「私の降りる駅だから」

……帰る時、楽と言うことだな。


電車の中はラッシュのピーク。

ぎゅうぎゅうに詰め込まれて、後ろでドアが閉まる。

ドアのすぐ横に葛西が立っていて、その横に久坂が入り込んだ。

「か弱い女の子なんだから、少しは盾になりなさいよね」

うん、可愛くない。

久坂の横に立って、荷棚に手を掛ける。

葛西も黙って久坂に重みが掛からないように立っていて、なんだかいつかの光景だなとつい口元が緩んだ。


そういえば、藤村さん。

先週会ったきりだなぁ。

同じくらいに帰るんだから、今日も会えないかな。

先週の今頃、お茶を飲むために改札で藤村さんを待っていた。

しっかし、小さかったなぁ。

俺が振り向いた目線に、頭の先さえ入ってなかった。


ふっと顔を上げる。

すし詰め状態の車内。


まぁお茶のみも俺に謝る為とか言いながら、会話は葛西とばっかりだったけど。



「……ん?」


ぼけっと見ていた俺の視界に、ちいさな人が映りこむ。

ぼやけていたピントを合わせると、そこには


「藤村さん……」

つり革に辛そうに掴まる、藤村さんの姿があった。


俺の呟きは、彼女には届かなかったらしい。

ただ葛西には聞こえたようで、天井に向けていた視線を俺の方に移したのを感じた。

そのまま俺の視線の先を見たようで、ホントだ、と呟く。


掴まるだけでもきついだろうに、後ろから押されて懸命に握っているのだろう。

ピンと伸ばした腕の先で、つり革に掴まる手が白く、しかも震えている。

もう少し近くにいるなら、こっちに引き寄せられるのに。

手は届く距離だけど、さすがに座席の向こう側に立っている彼女を引き寄せるのは物理的に無理。

次の駅で乗客が動いた時に、声を掛けてみようか。



そのまま藤村さんの方を見ていたら、ゆっくりと視界に肘が入ってきた。

……て、肘?

下に向けていた視線を上げると藤村さんの横に立っているおっさんのつり革を掴む手が、ゆっくりと下がってきている。

顔を見ると、居眠りをしているらしく目を瞑っていて。

声を掛けようと口を開いたところで、つり革から手が離れた。


「……っ!」

とっさに手を伸ばす。

寸でのところで肘を手のひらで受け止めると、俯いていた藤村さんが顔を上げて頭の上をみた。

びっくりしたのか、大きな目を真ん丸く見開いて俺を見上げる。

「あ……れ?」

「……やぁ」

俺は手で肘を受け止めたまま、軽く笑ってみせてみる。

受け止めた肘の持ち主は衝撃で目が覚めたらしく、ぱっと目を開けて肘と俺を交互に見た。

「あ、すみません」

やっと自分の置かれた状況に気付いたらしく、慌ててつり革を再び掴むと俺に頭を下げた。

それに手を少しあげて応えながら腕を戻すと、やっと藤村さんが今の状況を理解できたらしく口を開こうとする。

俺はそれを首を振って止めると、丁度電車が次の駅に到着するところだった。


ゆっくりとドアが開き車内の人が降りていくのに便乗させて、藤村さんを呼ぶ。

おいでおいでと手を向けると、素直に傍に来きた。


――うっわ、すげぇ可愛いんですけど

何、この小動物。

頭、撫でてもイイデスカ?


にやにやしそうな顔を何とか引き締めて、隣に来た藤村さんに笑いかけた。

「お疲れ様」

「お疲れ様ですっ。あの、ありが……っ」

俺の言葉に続いてお礼を言おうとした藤村さんの身体が、車内に入ってきた人に押されていく。

慌てて肩を掴んで久坂の横に押し込んだら意外な声が上がって、俺と葛西の目が久坂に集中した。


「あら、遥じゃない。あんた、変態達と知り合いだったの?」


「……へんたい?」


きょとん、としたような(身長的に埋もれてて見えないけど)藤村さんの声に、俺と葛西は驚きながらも肩を落とした。



――変態はよしてくれ……


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