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「おぉ、女王久坂のお出ましだ」
「うーわー、噂の二人が勢ぞろい。俺、逃げていい?」
大げさに慄く俺達を、久坂は冷たい笑顔で見下ろした。
「二人とも、殴られたい?」
――
“曖昧に笑う”、それは日本人が一番得意な表情かもしれない。
引き攣った笑いを浮かべる俺達にため息をついて、久坂は空いていた椅子に腰を降ろした。
ちなみに丸いテーブルに三つある椅子は均等に並んでいて、俺達二人の隣になるわけなんだけど。
後ろの方からこそこそと、“やっぱり佐木さんの隣に座った!”とか聞こえてくるのは、何でだろう。
君達には、葛西が見えなくなる呪いでも施されているのかい?
久坂は持っていた珈琲の紙コップをテーブルに置くと、じろりと俺を睨んだ。
その視線に、男なのにたじろいでしまう。
俺、よく先週こいつに歯向かえたな。
あの時の俺に乾杯。
「馬鹿な妄想にトリップしてる奴と付き合ってたとか、すっごい言われたくないんだけど」
物凄く嫌そうな顔をされて、俺も同じ様に顔を顰める。
「原因はお前じゃんか。誰だよ、私を捨ててとか言いやがったの」
そう言うと、久坂はため息をついて俺を見た。
「……悪かったわよ、言いすぎた」
「……っ」
思わず目を見開いて、葛西を見る。
「おい、女王久坂が謝ってるぞっ」
「なんだ、天変地異の前触れか?」
こそこそと言い合う俺達を見て、久坂の視線がきつくなる。
「ちょっとイライラしてたのよ」
そう不貞腐れたように呟いて俺から目を逸らす久坂。
少し頬が赤いのは、見間違いじゃないだろう。
俺が内心苦笑しながら頭をわしわしと撫でると、一瞬驚いて固まった久坂は肩を揺らして俺の手をどけた。
「やめてよね、あんたにそんなことされたら余計噂が助長するでしょっ」
「はいはい」
宙に浮いた手を戻すと、そのまま背もたれに体重を掛ける。
いつもこういう態度なら可愛いのに。
謝るまで一週間掛かるとか、ホント素直じゃないんだからねぇ。
しっかし、なんでこんなに突っかかるかなぁ……。
だから周りが引いちゃうんだよ。
俺と葛西が多分同じことを考えている前で、久坂はいつもの態度を取り戻すと視線を辺りに廻らせてここに来て何度目かのため息をついた。
「ていうかふざけて言ったのに、なんでこんなにあんたとの噂が広まるわけ?」
忌々しそうに顔を顰めた久坂に、俺達二人は一瞬顔を見合わせてからもう一度彼女を見る。
「そりゃ……、相手がお前だからに決まってんじゃん」
これが他の女性だったら、ありえないっての。
呆れたように俺達が見る事にイラついたのか、久坂は片方の眉を上げて胡乱げな雰囲気を醸し出す。
その空気に、周りまでぴしりと固まった。
「なんで私だからよ。あんたがでかくて目立つからなんじゃない?」
「でかいとか関係ない。大体俺って目立たないし~」
「いや、それは反論。お前、目立ってるから」
久坂から始まり、俺を経て葛西に至る会話。
目立つ目立つって、何が!
「俺、目立ってないって……」
葛西を見ると、飲み終えた缶珈琲を横に避けて頬杖をついた。
メガネがずれたのか目が疲れたのか、掛けていたそれを外してテーブルに置く。
「お前、普通に考えてみろ。そんだけでかい人間が、目立たないわけないだろ?」
「まったくよ。結構言われるもんね、飲み会とかで。佐木さんって彼女いないんですかぁとか、優しくてぇ温和でぇあの身長ぉ。超格好いい~とか」
葛西の言葉を継いで、久坂がちゃらちゃらした言葉遣いで茶化すように誰かのまねをする。
「あ、それって受付の?」
「そうそう、もしかして葛西も聞かれた?」
……二人で意思疎通しないでもらえませんか。
まったく意味の分からない状況に、二人を無視して残っていたピラフを全て口に放り込んだ。
咀嚼して飲み込む。
で、ゆっくり珈琲を飲んでから、視線を上げた。
「んで? 何の話?」
楽しそうに話していた二人は、真顔で俺を見る。
「本性知らなきゃ、もててるかもしれないお前の話」
「なんじゃそりゃ」
葛西が面白そうに、右の指を立てる。
「口さえ開かなきゃ、まぁまぁな顔してるもんな。加えてその高身長。でも、思考が乙女ってところがなぁ」
どういうことだ。
思考が乙女……、ちょっと反論できないから必殺曖昧な態度だ!
久坂はそんな俺を見ながら足を組みかえると、前で腕を組む。
その際ちょっと見えそうで見えなかった足の膝上の部分に、ほんのちょっと、一瞬だけ視線が向いた事は気付かれていまい!
「思考が乙女の癖に、視線は男って? ばっかじゃないの、視線が向いてる先くらい女にはバレバレなんだからね」
あ、ばれてた。
言い逃れできない雰囲気に思わず久坂の顔をガン見して、真剣な声を出してみた。
「それは男だから仕方ない!」
「……本当に馬鹿でしょ」
疲れたその声に、にへらっと笑ってみる。
「男は馬鹿くらいがちょうどいいんだ」
「男全部が、お前と同じ思考だと思われたくない」
「葛西、お前この裏切り者めっ」
葛西は額に手をやって、首を振っている。
「ホント、口を開かなきゃいい男の仲間入りできるかもしれないのに」
「残念よね。この男の枕詞は、残念よね」
「……?」
……枕詞って、何?
思考を読まれていたら、本当に“残念”と言われそうな事を俺は首を傾げながら考えていた。
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