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でっかい俺とちいさな君  作者: 遠野 雪
第二章 合わせるのは目線
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それから一週間。

先週の今日は、報告書作成の為、週に一度、会社に詰めている日だった。

今日と同じ様に、葛西と昼飯を社食で食ってた。


藤村さんにキスマークをつけられた日、それが先週の今日。


俺の目の前には、あの時、葛西に約束させた奢りの昼飯が置いてある。

いつもなら頼まない、社食で一番高いビーフシチュー。

それに、ピラフ大盛り。

飛び上がって喜びたくなるほど、豪華な昼飯なんだけど。

俺の心は、寒風吹きすさぶ日本海って感じだよ。

スプーンを持ったまま固まっている俺を、葛西が哀れむ様な視線を向けている。

「……災難、だな?」

「……まったくだ」

葛西の言葉に、大げさなほど肩を落とした。




先週の商談日、久坂と一悶着あった日。

あの後、気付いたら久坂は戻ってきてて、いつも通り商談をこなしていた。

当日は怒ってて険悪な雰囲気だったけど、さすがに翌日からは普通に戻った。

一応、大人だからね。

何事も無かったかのように、お互い“いつも”に戻ったわけですよ。

あれだけ聞かれていた周りからも何も言われず、俺としては終わった事として処理してたんだけど。



「バイヤーの佐木さん、久坂さんの事捨てたらしいよ!」



この言葉だけが、社内に広まったらしい。


社食の後ろのテーブルから今さっき、そう、ついさっき聞いた言葉に、俺は固まった。

そして、今に至る。


せっかくのビーフシチューが冷めていくのに、手を動かせない。

「さっきの子達には一応否定して説明したけど、どこまで広がってるのかねぇ……。この噂」

葛西がラーメンを啜る手を止めて、頬杖をついた。

「今までの久坂の噂とくっついて、相乗効果抜群になっちゃってるしな」

葛西、笑えねぇよその言い方。

そう、久坂がうちの事業部に来た理由についての噂と、俺が捨てた噂がくっついて、さも真実のように話が作られてしまった。

 

さっきの女性社員談。

・別れ話をした俺を引き止めるために、久坂は秘書課から強引に異動してきた。

(そんな理由で強引に異動できるなら、単身赴任が会社から無くなるっつーの)

・懸命に繋ぎとめようとしたけど、俺に彼女が出来て久坂が捨てられた。

(まず、前提が間違っている。久坂と付き合ったことが、まったく無い)

・それでも縋り付こうとした久坂を、俺が朝、職場フロアで衆人環視のもと、振った。

(縋り付いてねぇし、振ってねぇし、衆人環視のもと、俺に突っかかってきたの久坂だし)



「もう、面倒くせぇ。あー、面倒くせー」

ぶつぶつ言いながら、それでも冷め切ってしまう前にと食べ始めたピラフを口に放り込む。

普段なら、凄ぇ旨いはずなのにー。

なんだか、もう、全てが面倒になってきた。

「まぁ、人の噂もっていうし。地道に否定していけば」

いつの間にか食べ終わった葛西が、缶コーヒーを一口飲む。

その香りに無言で百円を葛西に渡すと、はいはい、とため息をつきながら自動販売機で珈琲を買ってきて俺の前に置いた。

「んで、藤村さんとはどーなの? あれから会った?」

「ん? あー」

スプーンを口に銜えたまま缶のプルタブをあけていた俺は、頷いてからスプーンを口から外した。

「あの翌日と、金曜日に会ったよ。いやー、ホントあの身長はラッシュだと可哀想だわ」

珈琲を飲むと、温かい感覚が喉もとを過ぎていく。

あー、美味い。


「そっか。俺は木曜に一度かな」

葛西は前も言ったけど、日勤・夜勤がある職場。

月曜と木曜が日勤で、通常社員と同じ時間に出勤する。

その代わり俺が外回りでいないことが多いけど。

「なんつーか、可愛いよな。あの子」

そう言う葛西を、食べ始めたビーフシチューから顔を上げて見た。

「……お前もか」

その言葉に一瞬目を見開いた葛西は、ニヤリと笑った。

「まぁな。とりあえず、俺の方が一歩リードな気がするけど」

「あー、話だろ? 俺にはまったく分かんねぇ世界」

冷め切ったビーフシチューを口に運びながら、ため息をつく。

朝、あのラッシュの中で言葉を交わす事なんて少ないけど、それでも話は葛西の方が合うだろう。


「まぁ、好きって言うか可愛いんだよなー。ホント」

「確かに。傍にいて欲しい感じ」


癒されそう……


そう葛西と言って、頬杖をついた時――




「悪かったわねぇ、癒しよりも面倒ばかり与えて?」




確定の言葉を疑問系にのせて、久坂が登場した。




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