第1話 プロローグ
ザッザッザッザッザッ
「おい荷物係のガキ、遅いぞ。チンタラ歩いてんじゃねぇ!」
「は、はい」
「たくよう。仕事くれって言うからコッチが仕方なく使ってやってんだ。もっときちんと仕事しろや」
「す、すいません」
ああ、荷物が重くて目が霞む。
だけどやっとありついた仕事だ。
途中で投げだしては次の仕事の信用にも関わる。
だから雇い主の扱いが少しくらい荒かったとしてもここは我慢の一択しかない。
「カブ、そんなに新人を虐めるな。荷物係が居なかったら誰が荷物を運ぶんだ?そんなガキでも今は必要な仲間。無碍にするんじゃねぇ」
「ああゼンクトすまねぇ。判ってはいるんだが、どうにもこのガキが鈍臭くってよう。ついつい構いたくなっちまうんだぜ」
「はあ、ガブの悪い癖ですね。そうやって何人荷物係を辞めさせたんです?いい加減にして下さいよ」
「ああ?青二才が何言ってんだ。俺はパーティの結束を守ってるだけだ。ガキが遅れたらパーティ全体に関わるだろうが。だから適切に注意してるだけだぜ。なあガキ」ドスッ
「うっく!」
「うははは、相変わらず体力ねーガキだ。だが大事な荷物だ。ちゃんと運ぶんだぜ」
「………は、い」
そう言いながらガブはその太い腕をボクの荷物の上に乗せワザと荷物重量を上乗せする。
それだけでボクの身体は後ろに仰け反りそうになり堪えるのに必死だ。
このところのガブの嫌がらせは所謂新人虐めに他ならない。
ちくせう。
モヒカン野郎は頭禿げ散らかして死ねばいいのに。
そんな事を思っていると前方に大きな洞窟が見えてくる。
ここは王国辺境にある出来たばかりの名も無きダンジョン。
目の前の三人は中堅冒険者パーティ《剛腕の鉄斧》メンバーで胸元まで黒い顎髭伸ばした珍しい黒髪ドワーフがリーダーの人間二人が属する混成チームだ。
そしてボクが荷物係エルフとして最後尾からついて行く。
そう、エルフなのに荷物係である。
事の発端は二日前。
仕事が見つからずギルド掲示板を食い入るように眺めていたら子猫のように摘ままれた挙句なし崩しに荷物係にさせられてしまったのだった。
ちくせう。
「しっかしよう、本当に小さいガキだな。その耳はエルフらしいが普通エルフったらもちっと背が高くて魔法使いか弓使いだろう?何でお前は荷物係なんだ?」
「ガブ、構い過ぎです」
上半身十字ベルトに長ズボンとブーツのモヒカン筋肉デカ男。
言いたい事を言いやがる。
勝手に荷物係にしたのはアンタらだろう。言ってる事が不条理過ぎる。
まあ、他の仕事をやれと言われても困るのだけど。
なにせボクは魔法を使いたくとも使えないエルフ。
一応狩人服は着ているけど弓術は下手だ。
多少は習ったけど体力が無いから実戦では役立たない。
はあ、ホント弱者に厳しい世界だよ。
「うるせぇな青二才。俺達はチームなんだ。新人の事を色々知っとくのは必要だろうが!チッこれでも女だったらまだ使い道もあんだがよう」
ゾクッ
ガブの目がボクを値踏みするように見つめた。
うう、悪寒がする。
ガブの女癖の悪さは折り紙付きだ。
万が一ボクの性別がバレればその結末は想像したくない。
だから絶対にバレてはならないんだけど最近ガブのボクを見る目が変わった気がする。
まさかバレている?
いや、バレてはいないはずだ。
多分……そう願いたい。
そして今ガブに青二才と言われたのは僧侶で回復役のフレイン。
アース教の白僧侶服を身に着けた僧侶で比較的背の高いイケメンだ。
ボクを勧誘したのも彼でゼンクトに代わり実質パーティの運営管理の全てを担っている。
僧侶だけに良識はあるしそれなりに気遣いも出来る好青年で背が高い。
つまりモテるのである。
現在かなりの女性冒険者達に人気があり貢いで貰ったりでかなりの副収入があったりする。
所謂推し活の対象なのだ。
ちくせう。
リア充死ねばいいのに。
因みにこの《剛腕の鉄斧》は前衛が鉄斧を振るうゼンクトと剣士のガブ。
後衛は回復役のフレインと荷物係のボクことメリアドールの4人構成となる。
実はボクがチームに入る直前まで魔法使いの女性が居たらしい。
しかしガブが荷物係を兼任させようとした為にチームを抜けてしまったんだそうだ。
魔法使い職に荷物係を兼任させる?
有り得ないだろう。
でも本当はガブのセクハラに辟易して抜けたのが理由らしい。
これは勧誘してくれたフレインからの情報だ。
だからという訳でもないがボクは表向き男という事にしている。
グリーンの髪の毛も日頃から短髪にしてるし防犯上からもずっと男で通してきたのでメンバー全員にも内緒のままというだけだ。
なお、この世界のエルフは本来魔法適性が高く大多数がその体内に人間より多くの魔力を持っている。
なので元来エルフの職業は冒険者なら魔法使い。
それ以外なら身体強化を使った弓使いが殆どとして一般的に認知されている。
だから荷物係なんて地味な職種に就くエルフなんて皆無である。
そう、皆無だったんだがボクが居る事で例外を作ってしまった。
何故に例外となっているのは省くけど、とにかくボクはエルフに珍しい荷物係となって今のチームにメンバーとして加わったのはつい先日の事。
あのガブが後衛の女魔法使いを過度なセクハラで追い出した直後、ギルド内でパーティ募集中の看板を見ていたボクをフレインが適当に摘んで………いやボクを問答無用にスカウトして引き込んだのだ。
有り得ないだろう!?
確かにお上りさん宜しくギルド内でアッチコッチ見回してる不審エルフがいたら鴨ねぎエルフだラッキーって感じで用意した鍋風呂にぶち込むのは当然の成り行きなのかも知れない。
うん?
成り行きでいいのか??
だとしてそんなエルフが居たらボクでも傍目第三者視点にて可哀想程度で済ましてその後は記憶にも残らないのだろう。
第三者視点ならね。
しかし当事者ならとんでもない話なんだよな、これが!
という訳で不本意全身アピールで嫌々したんだけどガブの前では逆効果。
ほぼ強制的に荷物持ちとされてしまったという訳なのさ。
そんなでボクはガブは勿論だけどフレインにも良い印象は無い。
ゼンクトははなから関心無しの我関せず。
あと絶対にフレインには裏の顔が有りそう。
いかに性格が良くて聖職者で社会的信用がある人物だとしてもボクは彼を信じきれないんだ。
理由はイケメンでリア充だから。
イケメンでリア充は信用ならないと思っている。
勿論殆ど偏見なのは分かっている。
だけど駄目だ。
前世からの因縁もあって女にモテるイケメンは信用しない事に決めているからね。
あとボクらが入ったのはモンハン王国に十年ぶりに現れた新ダンジョンになる。
これの最初の調査チームに選ばれた中堅冒険者パーティ。
それが今回ボクの所属する《剛腕の鉄斧》という訳なんだ。




