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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ホラー

オルゴールが手から剥がれない

作者: おおらり
掲載日:2025/12/20

※ ホラーです ご注意ください


 オルゴールが手から剥がれなくなった。


 オルゴールは量販品で、立方体に近い形だが縦幅と横幅よりも高さが低い。正方形の黒い土台にオルゴールがついており透明なプラスチックのカバーで覆われている。シリンダーが動き、櫛歯(くしば)が弾かれて曲が流れるのが見える。


 左手のひらに乗せて剥がれなくなってしまったので、そのまま足早に歩いている。オルゴールを買った店に返品に行こうとしているのだけど記憶が曖昧だ。観光地にあって紫陽花が綺麗だったのを覚えている。だからきっと鎌倉かなと思うのだけれど、どう行動しても浅草とか東京タワーとか草津とか別の観光地に辿り着いてしまって、鎌倉に行くことができない。


 オルゴールは鳴る。メロディは、有名な黄色いクマの曲のサビの部分だと思う。私が幼い頃大好きだった黄色いクマの曲。


 路地、病院、踏切、学校、国道の交差点、駅、デパート……私が不気味と感じる場所を通ったとき、オルゴールは鳴る。


 でも、どうして鳴るのかがわからない。このオルゴールは、金色のネジが黒い土台の下についているタイプなのに。私の左手のひらと土台のあいだにネジがあるのだから、ネジが回るはずがないのに。


 オルゴールが鳴るのが怖くて、怖い場所を避けながら鎌倉を目指す。

 なのに、そのうちどこにいても鳴るようになってきた。明るい光の差す場所。噴水のある公園や、にぎやかな商店街、クリスマスマーケット、楽しそうな人々の行き交う観光地。どこでも鳴る。


 左手にこんなものをつけていて、軽蔑されるかもしれない。それが怖くてたまらないのに、誰も私に気づかない。みんなが好きなクマの曲が鳴っているのに。


 そもそも季節は12月なのに、紫陽花の咲く鎌倉なんて目指したって辿り着けるはずもない。突然、気づいて。店員さんを頼らず一人でやってみよう。私にだって何か一人でできることがあるはずだと。右手に拾ったアイスの棒を持って、テコの原理でオルゴールを剥がそうとすると、左手の平の骨から上、皮と肉までもが剥がれてしまった。

 さかなを食べるときのように剥がれた。左手の半分を失ったのに、血も出ないし、痛くもない。


 オルゴールは剥がれたけれど、手も私から剥がれてしまったし、手の皮と肉のついたオルゴールなんてきっと返品できない。観光地の人混みの中で泣いているのに誰も足を止めない。


 そんな私をなぐさめるように、オルゴールが鳴る。幼い頃大好きだった、可愛いクマの曲。


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