聖剣リレー
「いっちばん、アルル、いっきまーす!!」
えーい、という何とも可愛らしい掛け声と共に、避難勧告済みの、王都の分厚い壁が円形に削り取られ、穴が空いた。
全一族統一学力テストの結果、見事最高得点を叩き出したのは、当代ではなくその従姉妹のアルルであった。
これは、当主に有利になるようにと考えられたはずの長老衆の甘やかしだったが、一問一答の持ちよりというルールのもと、本の虫である当代に解かせてなるものかと、個人的な問いが複数集まったからだ。
やれ自身の好物を当てろだの、日記の隠し場所は、だの。当代が頭を抱えるなか、一族内の成人のうち最年少のアルルはその性格ゆえに皆から可愛がられていた。当然交流も深まるわけで。結果、一族の個人的情報を一番所持していたアルルが見事に第一陣となったのである。
ちなみに当代は三番目だ。実際の学力的な質問には全て正解している。
「私の!大事な!台所ぉ!!」
お菓子作りが趣味のアルル、彼女のために整えられた製菓用品が詰まった夢の巣は、軍の襲撃により燃え落ちていた。
開けた穴から王都へと侵入して、手あたり間に町並みを削り尽くす。
大小様々な穴によって人の住める状態ではなくなった家々に、石畳にできたクレーター。それを眺めて、アルルはにっこりと笑った。
「えへへ、もういっか!また集めるのも楽しいよね」
続いてだるそうに現れたのは無精髭を生やした男性だった。
その手には抜き身の聖剣がぶら下げられている。
「あ、二番、シュローン。行きます」
軽く石畳へと突き立てられた刃。瞬間王城まで一直線にあった建物がごっそりと削られ、消えた。
「っはぁ、だるかった。おっし、やってやったぜ!!」
先ほどの魔力枯渇状態から、打って変わって覇気がみなぎった顔。
彼はシュローン、当代の兄である。
「うちの可愛い弟を舐めやがって、ふぅ……」
ふたたび、ゆっくりと魔力を排出。彼は一族内で一番魔力の操作に長けていた。
「うっぷ、お、ら!」
剥き出しの土へと突き立てられる聖剣。
王都の半分ほどの地面が半球状に抉られ、上の建物群は穴の底へと崩落していった。
建物の中には、避難勧告を鼻で笑っていた民衆、他に行き場のない貧困衆、周りを警備で囲んでふんぞりかえっていた貴族衆。
突然の浮遊感と共に落ちていく。
揺れる大気、舞う土煙。
「こんなもんかな。うちの弟妹たちの分も残しておかねぇと」
苦痛のうめき声にあふれる穴底を気にもかけず、踵を返した。
聖剣の扱いにおいて一族内で一目置かれるシュローン。長男である彼の趣味は、弟妹を可愛がることである。
「三番、当主ルイン」
そう呟いて、彼は戸惑ったように半壊した王都を見回した。
「これ以上、何を壊せと?」
仕方なしに、彼はそばに落ちていた小石をつん、と突いて削ると帰ることにした。
当代聖剣所有者ルイン。彼は、当主を押し付けられるほどのお人好し兼常識人の、本の虫であった。
「おかえり当代、次俺な!」
「はいよ」
順番待ちをしていた再従兄へと聖剣を手渡し、行列を通り過ぎる。
「よっしゃ、俺ちょっと隣国行ってくら!」
「うわ、オレ狙ってたのに!いいなあ、まだ手付かずじゃん」
「占拠されたうちはどうする?」
「え~知らない人が触ったものなんていらな~い」
「そうだよなぁ、じゃ、そっちも壊すか」
「あ、待って待って!図書室は残しといて!あとで回収するから!!」
まだまだ復讐戦は終わらない。




