当代当主
「今代の聖剣スクラッチの所有者、動かないね~」
『そんだけ平和ってことだろ。いいことじゃないか』
「いや、あれは単にアーチ兄さんの本の虫を受け継いだだけだと思うよ。だってほら、隣国との緊張高まってるし」
『あー、なるほど。あの子が動かないから勘違いしてちょっかい出してきてるわけか』
「ヒィロの子孫たち、基本やりたいことしかしないもんね」
『やる時はやるだろ?』
「え~、ギリギリまで粘って最後に渋々じゃない。あの子も多分、図書館通いの邪魔になった途端に爆発するよ」
『わかってるなら神託でもなんでも出してあの隣国止めてやれよ』
「いーや。あの国僕を国教にして、破壊神教を弾圧してるもん」
『……いつできた、破壊神教』
「ルイン、要望書届いてるよ。南の国境で迷宮から魔物が出てきたんだって」
執務室で読書を嗜んでいると、突然ドアが開かれて従兄のトロンが入ってきた。その手にぴらぴらと振られているのは、開封された手紙の中身だ。
「迷宮の管理なんて国がやる仕事だろ。僕は行かない」
「そりゃそーだ。相変わらず貴族ってのはよくわからないよなぁ」
廃棄用の書類入れへと手に持った物を放り込むと、小さく掛け声をして僕の机の上に腰掛けた。
渋々本から顔を上げる。
「何?まだ用事?」
「父さんがさ、ずっと閉じこもってたら病気になるから引っ張り出せって」
思っていたよりずっとしょうもない内容に、再び読書へと戻った。
「訓練の時に出てる」
「知ってる。言っても聞かないんだ」
机から降りて出ていくトロンを音だけで聞き送った。
今読んでいる物は六代目の手記の写しだ。
聖剣の効率的な運用と訓練法を提唱した人だ、と聞いていたから面白いことが書いてあるかと思ったが、ほとんどが六代目に聖剣を押し付けて好き勝手やっている兄弟への愚痴である。
『当主とは、なるものではなく、押し付けるものである』
そんな一族の口伝の片鱗がすでに見受けられて悲しくなった。
「内容自体は面白いんだけど、当主の手記って心が痛むんだよなぁ」
特に今読んでいるあたり、妹が勝手に聖剣を持ち出して、自宅の花畑を荒らしたイノシシを殲滅しようと、裏山へと突撃するところなんて、大昔の事だとはわかっていても胃が痛む気がする。
あぁ、やっぱり。
ページをおくれば書いてある、裏山の被害、山を所有していた村への謝罪、そして引越し。
……六代目、これで引越し八回目だよ。
「あ、また倒れた」
『ほんとしんどい。あの剣を使うためにはしょうがないってわかってるけど、訓練見てるのさえしんどい』
「ヒィロがあんな使い方さえ編み出さなければ、あんなに苦しまないで済んだのにね~」
『諸悪の根源が、なにを……っ!?あぁ、また倒れた!もういいから、今日は休めって!』
「……当代、がんばるね」
『キィ、明日は会いに行くぞ。めっちゃ褒めてやる』
「うん、何かお土産持って行ってあげよう、本がいいかな?」
ほおに当たる冷たい地面の感覚。いつのまにか閉じていたまぶたを押し開けると、目の前には長めに刈り込まれた庭草が映った。
ころりと仰向けになって、腰につけていたポーション留から小さな瓶を引き抜き、栓を放り投げて中身をあおる。
「大丈夫か?」
かけられる声と差し出された手。従兄のナルススだ。
かつての当主争いで、最後まで僕と競り合っていた負い目からか、よく僕のことを気にかけてくれている。まあ、優しい兄のような存在だ。
「ありがとう」
引っ張り上げられ、立ち上がると、ナルススは周囲へと声をかけた。
「見ての通り、聖剣を扱うには魔力枯渇との付き合いが不可欠だ。君たちもじきに行うようになるだろう。いや、心配することはない、見ただろう?倒れたと言ってもすぐに気がつく程度だ」
少し離れてこちらを見ているのは、不安そうな顔をした一族の子供達。
前言撤回、こいつ、僕を教材にしやがった。
「あまり無理はするなよ」
と僕の頭を撫でてから、子供達を連れて去っていく後ろ姿を見送る。
「チビ達の前で子供扱いとか……こちとら当代だぞ?」
とはいっても僕自身が、あの子供達と同様に彼に物事を教わった身だ。
複雑な内心を抱えながら頭へと手をやった。
彼はナルスス、趣味は人に物を教えること。かつて一番当主に相応しいと評された存在である。
「よく頑張ってる、まだ小さい頃から当主押し付けられて、嫌な顔はしてるけど、それでもちゃんと当主してて偉いぞ。だって〜」
チカチカと瞬く小瓶の言葉を黒髪の少年、キィ兄ちゃんが通訳してくれる。
「ありがと、ヒィロ兄ちゃん。もう二年だからね、流石に慣れたよ」
瓶に向かってお礼を言うと、中の光が優しく揺れた。
何か言ったのかもしれない。キィ兄ちゃんが何度も頷く。
「うん、僕もルインはよくやってると思うよ。だってまだ一度も謝罪回りしてないでしょ?二年間も!え?褒めるとこ違う?う〜ん、じゃぁ訓練。ヒィロが思いついちゃったばかりにあんな辛い訓練、ごめんね?」
小瓶がピッカピカ光ってる。さぞかし文句を言ってるのだろう。
「それはいいよ、だってみんな、僕も含めてだけど、聖剣大好きだからね。訓練は辛いけど、結構楽しんでやってるよ?」
聖剣を振るうことは、僕たち一族全員の趣味と言えるのかも?
呆れたような光の点滅。
「うちの子たちがいい子だけど変な方向進んでて辛い。だってさ」
「変な方向?」
キィ兄ちゃんは瓶を軽く弾いて、チン、と涼やかな音を立ててから僕に笑いかけた。
「僕は君たちの生き方好きだよ。また来るから」
「あ、うん。本ありがとう、大事に読むね」
おまけ
聖剣一族の当主選び
1、一族の成人を集めます。
2、こいつは当主にしたらやばいってやつを抜きます。
3、互いに自分がどれだけ当主に向いていないかを主張しましょう。
4、みんなを納得させられたらおめでとう、一抜けです。
5、最後まで残ったあなたは残念でした。当主です。




