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9/24

無断で写真を撮るのはルール違反です ①

 大盛り上がりの文化祭から一カ月が経った。


 二学期の期末試験も無事に終わり、終業日をむかえて、普段は静かな図書室も駆け込みで本を借りたい生徒で、ごったがえしていた。

 高校によって違うらしいけど鶴谷城高校の場合は、冬休み中の図書館は自習室として開放されるだけ。

 なので、学校司書の山口先生が図書室を管理するだけで、私たち図書委員は特に仕事がない。


 冬休み中は、深津さんや江藤とかと図書館デートしたり、お泊りで勉強したり、正月に近くの神社に行ったりするつもり。

 文芸部に顔を出してから、深津さんといっしょに図書室に行くと、図書カウンターに田村がいて、貸出・返却作業を担当していた。


「田村君が、カウンター当番をしてるなんて珍しいじゃん」

「いつも代わりにやらせてる後輩から頼まれて、断れなかったんだ。

 それにしても今日は貸出が多くないか? 特に一年!」

としゃべりながらも、貸出作業の手は止まらない。


「あーそれ、一年生の宿題に読書感想文があるから。

 去年もそうだったよ。

 うちの学校、朝読書に熱心だし、そういうのが好きだよねー」

「そうなんですね。皆さん、普段から朝読書で本を読んでいるから、感想文を書く本に困らないと思うんですけど。不思議ですね」

 ですよねー、深津さん! それとも、それとこれとは別なのかな?



 それで、図書準備室に行って山口先生に、

「お世話になりましたー! よいお年を!」

と挨拶して、深津さんといっしょに帰ろうとしていたら、なにやら図書室の奥の方が騒がしくて!


 もー、ふだんは閑散としているのに、最後の貸出日だからってうるさすぎ!

 図書委員はおとなしい子が多いから、図書室で騒いでいる生徒がいても注意できない子も多い。

 ここは図書委員長として、模範になるためにも注意せねばと思い、だけど私もちょっと怖いので深津さんと一緒に奥に向かった。


 図書館の奥に着くと、机と書棚の間で、

「だから! スマホで私のことを撮ったんでしょ!」

「俺、そんなことしてないってば!」

と、一人の女子生徒と一人の男子生徒が言い争っていた。

 周りに女子生徒が数人いて、男子生徒をにらんでいる。

 いったいなにがあったの!


「スマホで私のことを撮った」と叫んだ女生徒は、一年生の荒川翠さん。

「撮ってない」と言ってる男子生徒は、同じく一年生の鈴木孝直君。

 二人の間に入って話を聞こう。

 荒川さんからの話によると、冬休み中に本を読もうと書棚で選んでいたら、カシャって音が聞こえて。

 音がしたほうを振り向いたら、鈴木君が手に持った本ごしに、荒川さんのほうにスマホを向けていたそうだ。

「だから、そんなことしてないってば!」

と泣きそうな顔で反論する鈴木君。

 荒川さんの友だちらしい子たちは「きもい!」「こわっ!」「ヤバいよね!」といった言葉を鈴木君に浴びせる。


 まーまー、とその場をなだめて、ひとまず当事者の二人だけを図書準備室に連れていって、山口先生に事情を報告した。

 そして、ひとまず山口先生のほうから、

「鈴木君だっけ。いいですか。学校内のルールとして、図書室内で無断の写真撮影は禁止されています。図書室内のポスターにも書いてあります。

 そして、許可なく他人を撮影することは、プライバシーや肖像権の観点から問題になります」

と、説明があった。


「……僕は荒川さんを撮ったりしてないです」

と、否定する鈴木君。

「いいえ! 確かに私のほうに、スマホを向けてました。

 それも、片手に本をもってスマホを隠すようにして。

 私、見たんです! あれは絶対に盗撮です!」

と、荒川さん。


 で、私のほうから、

「鈴木君。撮ってないって言うのなら、スマホを見せてくれないかな?」

とお願いしてみる。

 トラブルが起こって私たちが現場に駆けつけてから、鈴木君を観察してたけど、

 その間にスマホをいじって撮影した写真を削除するような行動は見えなかった。

 もしなにかを撮っていたのなら、スマホにデータが残っているはずだ。


 そう思って鈴木君に提案したんだけど、

「それこそプライバシーの侵害です! いやです!」

と言って拒絶する鈴木君。

 山口先生が「うーん、困ったな。このままだと生活指導の先生に報告しなければいけなくなるけど」と言って、図書準備室に緊張が走ったところで。

 トントン!と扉をノックする音がする。

 ガチャっと扉を開けて田村が図書準備室に入ってきた。


「山口先生、相沢先生が呼びにきてますけど」

「あー、しまった! 会議があったんだ。

 ちょっと行って事情を説明して戻ってくるから、少し待っててね」

と言って、部屋を出ていった。


 そのまま部屋に残った田村が、

「あれっ、鈴木じゃん!

 女子を盗撮したヤツがいるって聞いたけど、鈴木だったの?」

と鈴木君に話しかけた。

「田村先輩、僕は女子を撮ったりしてないです!」

と、叫けぶ鈴木君。


「えっ、田村君、鈴木君と知り合いなの」

「ああ。コイツは放送部だけど、演劇部の音響とかをときどき手伝ってくれててさ」

 へー顔が広いなー、田村。

 すると田村が、「時間も遅いし、調べた結果は後で報告するから」とかいって、なぜか荒川さんに対して帰宅をうながす。

 荒川さんも話が平行線なことに嫌になったのか、連絡先を書き残して、外で待ってた友達と帰ることになった。


 それで、荒川さんが部屋を出た途端、ニヤニヤした顔の田村が、

「鈴木~、彼女を撮りたかったんでしょ(笑)?

 恥ずかしいのかもしれないけど、嘘はいけないなー!」

と、全員がうっすらと思っていたことを口にする。

 こういうとき、デリカシーのない田村が役に立つことがあるんだねー。


 田村が「内緒にしてあげるから、写真を見せろよ」と佐々木君に迫った。

 でも、鈴木君はかたくなに「違うんです! そんなんじゃないんです!」と拒否する。

 そこで田村が、「なにが違うんだよ、いいから見せろ!」と鈴木君のスマホに手をかける。

 いや、スマホを奪ったってロックがかかって見えないでしょ。


 でも、それが効いたのか、あきらめた様子の鈴木君が「わかりました」とスマホをいじりだす。

 そして、あきらかにホッとした顔になってスマホの画面をこちらに見せてきた。

 その画面には真っ暗な写真が表示されていた。


「今日の日付で撮影された写真はこれ一枚だけです。

 真っ暗でなにも映っていない写真です。

 ね、撮ってなかったでしょ!

 そ、そうだ。

 誤って、カメラのボタンを押してしまったのかもしれません。

 荒川さんが聞いたっていう音は、それなんじゃないかなー。

 誤解を招くことをしてすみませんでした!」

 なーんて、あからさまに自分の無実をアピールしてくる(あやしすぎるよ!)。


 すると田村が、差し出された鈴木君のスマホを受け取って、いじり出す。

「あ、田村先輩、なにをするんですか」と焦り出す鈴木君。

「だまれ」と田村。


 そして、田村がさらに自分のスマホのほうで、なにかの操作をし出した。

 私まで不安になってきて「なにをしてるの、田村君」と声をかけたところで。

「いやー。真っ暗な画像を俺のスマホに転送して、写真アプリで明度と彩度をいじってみたんだけどさー」

と言って、スマホをいじりながら不思議そうな顔をして、その画面を私たちに向けてきた。


 真っ黒だった写真が真っ白に変わってて、縦に黒字で文章がたくさん書かれていた。

 読んでみるとそれは何かの本の「あらすじ(物語の要約)」のようだった。

「鈴木、なんでこんな写真を撮ったんだ?」と田村。

 何も言わず、うつむく鈴木君。

「このページを撮影したくて、図書室で写真を撮ったのか?

 そんなことしなくて本を借りればよかったのに、めんどくさかったのか?」

と、鈴木君を問い詰める田村。


 うん? 本を借りればよかったのに借りなかった?

 田村が言うようにめんどくさかった? あるいはカウンターが込んでたから?

 それともなにか借りられない理由があったのか?


「「借りられない理由」」

と思わずつぶやいたとき、その一言を深津さんもつぶやいてシンクロする。

 ハッとして、横にいる深津さんと目を合わせる私。

 何かを察した顔で深津さんが、図書準備室にあるパソコンで何かを調べ出す。

 そして、一言。


「鈴木君の図書カードですが、本の返却が延滞していて、本が借りられなくなってます」


 やっぱり!

 本の延滞で本が借りられないから、必要なページだけスマホで撮影したんだ!

 でも、なんで本のあらすじ(要約)なんか写真に撮ったの?

 おもわず、また深津さんを見る。

 すると、深津さんがホワイトボードに箇条書きにまとめてくれた。


・一年生の鈴木君は、いま本が借りることができない

・そのため、なにかのために必要な本のページをスマホで撮影した

・それは本のあらすじ(要約)だった


 それを眺めながら、足りていない要素がなにかないかと頭をめぐらす。

 それで、思いついたことをボソっと言ってみた。


「今日は二学期の最終日。

 図書室で本を借りられるのは今日まで。

 冬休み中の読書感想文のため、一年生の本の貸出が多い……」


 あ、そういうことか! 鈴木、てめー!


「鈴木君。

 君は、読者感想文を、本のあらすじだけで書こうと思った。

 そのために、このページを撮影したんじゃないかな!?」

と言って、多少の怒りを込めて、佐々木君に詰め寄る私!


 横の深津さんもめずらしく険しい顔で、

「私もそうじゃないのかと思いましたが、違いますか?」

と同調する。


「うわー、気づけたわー!それ!」

と田村が叫んだ。

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